ハラスメント対応と善管注意義務―経営陣に問われるリスク管理の本質

■本稿の結論:
ハラスメント対応の不備は、役員個人の善管注意義務違反として50億円規模の賠償リスクを孕む。

フジ・メディア・ホールディングス(HD)は、ハラスメント問題への対応を怠ったことは取締役としての善管注意義務違反に当たるとして、元幹部に対し50億円もの損害賠償を請求したことを明らかにしました。
この事案は、経営陣が負う「善管注意義務」の重みを改めて浮き彫りにしました。
ハラスメントへの不適切な対応は、もはや単なる人事問題ではなく、経営者個人の法的・経済的破滅に直結するリスクへと変貌しています。

善管注意義務とは何か

「善管注意義務」とは、会社法等に定められた役員の基本的義務であり、会社のために善良な管理者として注意を尽くして職務を遂行する義務を指します。
取締役や監査役など、会社の経営を委任された役員がこの義務を負います。
経営陣に「知らなかった」という抗弁は許されません。その地位や高度な専門性に基づき、客観的に期待される水準の注意を尽くすことが、法的な至上命題となります。

ハラスメントと善管注意義務

では、ハラスメント問題と善管注意義務はどのように関わるのでしょうか。
適切な防止策を講じないこと自体が「善管注意義務違反」になり得ます。
被害の申し出を黙認・隠蔽し、あるいは常態化したハラスメントを放置することは、明白な義務違反です。
その結果生じる損害賠償、レピュテーションの失墜、人材流出などの全責任が、役員個人に帰属する事態を招きかねません。

つまり、「知らなかった」「自分の担当部門ではない」は免責理由にはならないのです。

企業と経営陣に求められる対応(例)

ハラスメントに関して、経営陣・管理職が果たすべき注意義務は以下のとおりです。

1.予防義務

• ハラスメント防止方針の策定・周知
• 研修や啓発活動の実施
• 通報窓口の整備

2.調査・対応義務

• 苦情・相談を受けたら速やかに調査
• 公正・中立な立場で事実確認を行う
• 被害者の保護措置(配置転換・休業など)

3.是正義務

• 行為者への適切な処分
• 再発防止策の策定・周知徹底

これらを怠れば、経営陣個人が「善管注意義務違反」として損害賠償責任を問われかねません。

注意すべきポイント

(1)「形式的な制度」では足りない

実際に機能しているかを点検・改善する責任があります。

(2)経営陣自身の姿勢が問われる

ハラスメントに無関心であること自体がリスクです。

(3)内部情報の隠蔽や放置は最大のリスク

発覚したときの企業価値毀損は甚大です。

例えばこんなとき

社長がハラスメント加害者をかばう姿勢をとったとき

ハラスメントが発生した際、社長が、「加害者の社員は我が社の中核を担う人物だ。被害者側を説得して、丸く収めてくれ」と、加害者をかばう対応をとったとき、他の取締役や監査役はどうするべきでしょうか。

万が一取締役や監査役が黙認した場合、役員が被害者から損害賠償を請求されたり、労働局や裁判所から行政的・司法的制裁を受けたり、社会的信用を失墜するなどのリスクがあります。

取締役は、強固なガバナンスの守護者として、社長に決然と異議を唱える責務があります。「被害者救済が最優先であること」を主張し、社長個人の判断で「もみ消し」や「説得」を進めることを許さず、公正で中立的な調査を提案しなければなりません。
場合によっては、取締役会に正式に付議し、社長の職務執行を制限することも検討します。
明白に法令に反する方向に舵を切るなら、取締役会で社長の職務執行停止や解職の動議を出すこともあり得ます。

監査役は、違法・不適切な指示を是正する義務を負います。取締役の職務執行を監査する立場として、問題点を正式に取締役会へ報告する必要があります。取締役会で是正されない場合は、株主に報告したり、総会に諮ったりすることもあり得ます。

おわりに

ハラスメントは「一部社員の問題」ではなく、経営リスクそのものです。
善管注意義務を果たさなければ、会社が被る損害だけでなく、経営陣自身が巨額の賠償責任を問われる時代です。
この記事の読者様が対応を怠れば、億単位の損害賠償を請求される可能性もあるのです。
企業の持続的成長のためには、ハラスメント防止を単なるコンプライアンス対応にとどめず、経営課題の中核として位置づけることが不可欠といえるでしょう。

ハラスメント対策を「守り」から、企業価値を高める「攻め」の戦略へ

ハラスメント問題の本質的な解決は、単なる事後処理や形式的なルールの周知では成し得ません。特に経営層やリーダー層において求められるのは、自身の言動が組織のガバナンス、ひいては企業価値にどのような影響を及ぼすかという「真の自覚」と、現代の規範に即した「行動のアップデート」です。

取締役が負う善管注意義務は、適正な体制構築のみならず、発生した問題に対して「公正かつ実効性のある是正」を行うことまでを含んでいます 。放置や隠蔽は、経営陣個人のキャリアを揺るがす巨額の賠償リスクを招くだけでなく、組織の持続可能性を根底から破壊しかねません。

ケンズプロは、この困難な課題に対し、法的知見と心理学的洞察を融合させた独自のプログラムを提供しています。

  • EBT™ (Executive Behavior Transformation): 経営層・エグゼクティブを対象とした、完全非公開・個別対話型の行動変容コンサルティング。
  • BT™ (Behavior Transformation): 管理職・一般社員向けの、最新の判例と実務に基づいた実践的更生プログラム。

私たちは、ハラスメントというリスクを、組織の健全性を再構築し、卓越した成長(Excellence in Growth)へと転換するための「機会」へと変えていきます。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。