ハラスメントや不正は、しばしば「問題のある個人」の逸脱として処理されます。しかし実務で確認されるのは、行為者が変わっても類似事案が繰り返されるという現実です。これは偶発ではありません。組織の判断が歪みやすい構造条件が存在しているからです。
本稿では、ハラスメント対策・不正防止を道徳や教育の問題としてではなく、統治設計の問題として再定義します。再発を止めるには「処分」ではなく「設計変更」が必要です。私たちは、構造歪みを特定し、対応する統治レバーを当てることで、誤りにくい組織を実装すべきだと断言します。
再発が止まらない本当の理由
ハラスメント再発防止策や不正対策として、多くの企業が行うのは次の施策です。
- 行為者への処分
- 研修の実施
- 規程改定
- 再発防止策の公表
一定の抑止効果はあります。
しかし数年後、類似事案が再発する。
なぜか。
行為は処理したが、構造を是正していないからです。
再発とは、偶然ではなく「条件の再現」です。
同じ判断環境が温存されていれば、合理的に同じ誤りが生じます。
組織は合理的に誤るという現実
ハラスメントや不正は、感情的な暴走や例外的逸脱として語られがちです。
しかし統治設計の観点から見ると、組織は極めて合理的に誤ります。
次の条件が揃うとき、誤りは再現性を持ちます。
- 権限が集中し、牽制が弱い
- 成果のみが評価される
- 異議申し立てが不利益になる
- 制度が形式的に運用される
- 上位者が免罪される
- 業務が過度に逼迫している
- 役割と能力が整合していない
これらは個人の資質ではなく、統治構造の設計問題です。
【歪んだ構造】 → 【歪んだ判断】 → 【行為発生】 → 【処分のみ】 → 【構造温存】 → 再発
この循環を断ち切らない限り、再発防止は成立しません。
7つの構造歪み
当社では、判断を歪ませる要因を7領域に整理しています。
1.権限と責任の非対称
2.成果偏重と目的の断絶
3.沈黙の合理性
4.制度の形骸化
5.免罪文化
6.業務負荷の構造的逼迫
7.役割・適性の不整合
ハラスメントは③や⑦と接続しやすく、不正は②や⑥と接続しやすい傾向があります。
しかし根底では、すべて統治水準の問題です。
テーマ別対策ではなく、設計水準で捉え直す必要があります。
実務で繰り返されるパターン
多くの企業で観察されるのは次のような構図です。
- 「売上を守った管理職」は強く処分できない
- 内部通報制度はあるが、利用者は評価で不利になる
- ハラスメント事案は処理するが、評価制度は変更されない
- 業務逼迫を放置したまま「配慮」を求める
再発防止策報告書では「研修強化」「意識改革」と記載される一方で、評価設計や権限構造には手が入らない。
ここに原因と対策の非接続が生じます。
再発防止とは設計変更である
再発防止とは何か。
原因構造を特定し、それに対応する統治レバーを当てること
これ以外にありません。
例えば、
- 成果偏重が原因 → KPI・評価設計の再構築
- 沈黙構造が原因 → 情報経路の複線化
- 権限集中が原因 → 牽制設計の再編
研修は必要です。しかし、設計変更を伴わない研修は十分条件になりません。
統治レバーという発想
当社では、是正手段も7領域で整理します。
- 権限・牽制構造の再設計
- 評価・KPIの再構築
- 情報経路の複線化
- 初動から再発防止までの一気通貫設計
- トップメッセージと評価制度の整合
- 業務負荷設計の是正
- 人材要件・配置の再設計
重要なのは、
どの歪みに、どのレバーを当てるか。
ここを誤ると、対策は形だけになります。
予防と再発防止は同じ設計論
本フレームは、未発生段階でも発生後でも適用可能です。
未発生段階
- 歪み診断
- リスク領域の特定
- 統治レバーによる先回り設計
発生後
- 事案を構造マッピング
- 未修正領域の特定
- 設計変更による再発遮断
違うのはタイミングだけであり、設計思想は同じです。
他領域との接続
この統治設計アプローチは、以下とも直結します。
- 人的資本経営におけるモニタリング設計
- 内部通報制度の実効性強化
- 管理職の役割・評価再設計
- CEO意思決定の属人化是正
ハラスメント対策や不正防止は、単独テーマではありません。
組織の判断品質そのものの問題です。
処理ではなく、建築へ
事案処理は短期的な安心をもたらします。
しかし設計を変えなければ、組織は同じ条件に戻ります。
私たちが目指すのは、
- 再発しない組織
- 説明可能な組織
- 誤られにくい組織
を、制度として実装することです。
ハラスメントや不正を「誰かの問題」として扱う限り、再発は止まりません。
問うべきは、どの設計が歪みを許容していたのか。
再発防止は感情論ではなく設計論です。
構造を変える。それが唯一、持続する是正です。
Q&A
Q1.行為者を厳しく処分すれば再発は防げませんか?
処分は抑止効果を持ちますが、判断環境が変わらなければ再発可能性は残ります。構造歪みを放置したままの厳罰化は、沈黙構造を強化する場合もあります。
Q2.研修は意味がないのでしょうか?
意味はあります。ただし設計変更と接続して初めて実効性を持ちます。研修単体では、統治レベルの歪みは是正できません。
Q3.中堅企業でも構造是正は可能ですか?
可能です。重要なのは規模ではなく、権限・評価・情報経路の接続を再設計できるかどうかです。
Q4.再発防止策報告書はどう作るべきですか?
事案の事実整理だけでなく、構造マッピングと設計レバーの明示まで踏み込む必要があります。報告書は説明資料ではなく、設計変更の起点であるべきです。
投稿者
- ハラスメントと不正を構造から正し、判断の質を企業価値へと転換する―ケンズプロは、組織ガバナンスを実装する戦略パートナーです。
最新の投稿
- 2026年3月1日人的資本経営・開示「誰が採用したんだ問題」を終わらせる入口設計―採用は統治レバーである
- 2026年2月28日エグゼクティブ意思決定ハラスメントや不正は「構造」で是正する―再発を止めるための統治設計アプローチ
- 2026年2月28日再発防止策組織統治設計フレーム―判断歪みを防ぐ7×7アーキテクチャ
- 2026年2月28日知見春は人事部がバーンアウトしやすい?─忙しさだけでなく、統治設計の問題
