女性役員や女性管理職の比率について数値目標が設定されると、しばしば次のような反発が起こります。
「数字ありきで登用するべきではない」
「実力で選べばいい」
一見もっともらしく聞こえますが、この反発は個々人の能力論にすり替えられている点で、組織論としては本質を外しています。
問題は「誰を優遇するか」ではなく、どのような構造の意思決定を許しているかにあります。
意思決定は、必ず「多数派の前提」に引き寄せられる
組織の意思決定は、理論上どれほど合理性を重視していても、実際には以下の影響から逃れられません。
- 経験してきた働き方
- 想定している人生モデル
- 「普通」だと感じる前提条件
- 無意識に共有している価値観
これらは、悪意や差別意識がなくても、多数派の属性に強く引き寄せられます。
男性が大半を占める組織では、意思決定は自然と「男性の基準」でなされます。
年配者が多ければ、「年配者にとっての合理性」が優先されます。
これは倫理の問題ではなく、人間の認知の構造そのものです。
「1人いる」では、構造は変わらない
よくある誤解があります。
「女性役員はすでに1人いる」
「多様な人材は採用している」
しかし、少数派が1割未満の状態では、意思決定構造はほとんど変わりません。
- 発言が「個人の意見」として処理される
- 多数派の空気を読んで自己検閲が起きる
- 異論が「特殊」「例外」として扱われる
この段階では、多様性は装飾であって、意思決定の力学には影響しません。
「3割」を超えたときに起こる、質的変化
異素材(性別・年代・国籍・背景など)が全体の3割を超えると、組織には明確な変化が生じます。
- 多数派の前提が自明でなくなる
- 「別の視点」が常に存在する状態になる
- 決定プロセスに検討の深度が生まれる
- 暗黙の了解が言語化される
ここで初めて、独断が構造的に抑制されるのです。
重要なのは、この効果は個々人の「優秀さ」とは無関係に起こる、という点です。
なぜ「実力主義」だけでは偏りが解消されないのか
「実力で選べばいい」という主張が見落としているのは、実力の評価基準そのものが、すでに偏っているという事実です。
- 何を「成果」とみなすか
- どの働き方を高く評価するか
- 誰のキャリアを標準モデルとするか
これらは、歴史的に男性中心・同質的な組織の中で形成されてきました。
実力主義を掲げながら、女性にだけ「より高い完成度」「より無難さ」を求める構造は、結果として公平とは言えません。
異素材登用の本質的な意義
異素材を登用する意義は、「正しさ」や「配慮」のためではありません。
- リスク管理の精度を上げる
- 市場や顧客の変化を取り込む
- 組織の硬直化を防ぐ
- 離職や疲弊を未然に防ぐ
つまり、組織の意思決定品質を底上げするための設計です。
同質的な組織は管理が容易です。
しかし同時に、変化に弱く、創造性に乏しく、問題の発見が遅れます。
数値目標は「暫定的な構造調整装置」である
数値目標は、理想形ではありません。
しかし、歪んだ構造を是正するための暫定的な設計手段としては、極めて有効です。
まずは、性別・年代・国籍・学歴・価値観など、あらゆる領域で異素材を一定割合入れる。
その結果として、組織の意思決定が変わり、評価軸そのものが更新されていく。
順序は、構造 → 意思決定 → 実力評価です。
組織に問われているのは「誰を選ぶか」ではない
問われているのは、どのような判断が生まれる構造を許しているかです。
異素材が3割以上存在する組織は、誰かの善意や勇気に依存せず、構造として偏りを抑制できます。
それは、多様性を掲げるためではなく、組織が長期的に判断を誤らないための条件です。
当社では、人的構成・評価制度・意思決定プロセスをガバナンスの観点から点検し、組織構造の再設計に関与しています。
投稿者
- ハラスメントを排し、個の真価を最大化する。ケンズプロは、日本の技術が世界を席巻する『正道』を論理で描く、組織ガバナンスの専門パートナーです。
