中小企業版人的資本経営-実践編

中小企業の人的資本経営は、できることから着実に進める

経済産業省や内閣官房から発出されている人的資本経営に関する資料は、上場企業・大企業を対象としたもので、中小企業がまるごと取り入れるのは非現実的です。
すべてを取り入れようとせず、また、最初から完璧を目指そうとせず、「できること(実行可能性)」と「やるべきこと(法令遵守/責務)」を整理した上で、優先順位をつけて取り組むことが大切です。
人的資本経営のステップ

(出典)『人的資本可視化指針』(内閣官房 非財務情報可視化研究会)P.7を参考に作成。https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

人的資本経営の二本柱-「実践」と「開示」

人的資本経営の二本柱「実践」と「開示」

【実践】人材戦略に求められる3つの視点・5つの共通要素

さらに、経営陣が主導して策定・実行する、経営戦略と連動した人事戦略について、3つの視点と5つの共通要素を示しています。
人的資本経営 伊藤レポート 経営戦略と人材戦略の連動

人材戦略の3つの視点(Perspectives)

  1. 経営戦略と連動しているか
  2. 目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握できているか
  3. 人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか

5つの共通要素(Common Factors)

  1. 目指すべきビジネスモデルや経営戦略の実現に向けて、多様な個人が活躍する人材ポートフォリオを構築できているか(「動的な人材ポートフォリオ」)
  2. 個々人の多様性が、対話やイノベーション、事業のアウトプット・アウトカムにつながる環境にあるのか(「知・経験のダイバーシティ&インクルージョン」)
  3. 目指すべき将来と現在との間のスキルギャップを埋めていく(「リスキル・学び直し」)
  4. 多様な個人が主体的、意欲的に取り組めているか(「社員エンゲージメント」)
  5. 「時間や場所にとらわれない働き方」

噛み砕くと・・・

  1. 経営戦略を実現する人材戦略
  2. 目標と現状の差を数値で把握する
  3. 社員の具体的行動指針や事業計画に具体的に落とし込む
  4. 持続可能な経営のための採用・配置・育成
  5. 知識や経験における多様性の活用
  6. 組織として不足しているスキル・専門性の取得
  7. 社員エンゲージメント
  8. 時間や場所にとらわれない柔軟な働き方

人材戦略立案においても、開示情報の決定においても、以上の8つの視点・項目を常に踏まえるようにします。

(1)3つの視点による人材戦略の実践

①経営戦略と人材戦略を連動させるための取組

経営環境が急速に変化する中で、持続的に企業価値を向上させるためには、経営戦略と表裏一体で、その実現を支える人材戦略を策定し、実行することが不可欠であり、その検討に当たっては、経営陣が主導し、経営戦略とのつながりを意識しながら、重要な人材面の課題について、具体的なアクションやKPIを考えることが求められます。

②「As is-To beギャップ」の定量把握のための取組

経営戦略実現の障害となる人材面の課題を特定した上で、課題ごとにKPIを用いて、目指すべき姿(To be)の設定と現在の姿(As is)とのギャップの把握を定量的に行うことは、人材戦略が経営戦略と連動しているかを判断し、人材戦略を不断に見直していくために重要です。

③企業文化への定着のための取組

持続的な企業価値の向上につなげる企業文化は、所与のものではなく、人材戦略の実行を通じて醸成されるものであり、そのため、人材戦略を策定する段階から、目指す企業文化を見据えることが重要です。

③【当社独自の視点】強みを把握し活かす

経営目標の達成や経営課題の解決のための人材戦略を構築するだけでなく、現時点で有している「強み」やこれまでの「取組」と「成果」も可視化し、社内に浸透させること、社外にアピールすることも大切です。

(出典)『人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~人材版伊藤レポート2.0~』(令和4年5月 経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf<

中小企業の人的資本経営取組フロー

(2)情報の可視化と開示

他社の事例や特定の開示基準に沿った横並び・定型的な開示に陥ることなく、自社の経営戦略の実現、人的資本への投資、人材戦略の実践・モニタリングにおいて重要な独自性のある開示事項とすること(独自性)、ただし、ステークホルダーが企業間比較をするために用いる開示事項の適切な組合せも必要(比較可能性)で、そのバランスの確保をすることが求められます。
独自性のある開示事項については、やはり理念等→経営戦略→人材戦略が定まってから、開示項目も定めることになります。
比較可能性のある開示事項については、『人的資本可視化指針』(内閣官房 非財務情報可視化研究会)で提唱されている19の開示項目をベースとするのが好ましいでしょう。

  1. リーダーシップ
  2. 育成
  3. スキル・経験
  4. エンゲージメント
  5. 採用
  6. 人材維持
  7. サクセッション(後継者計画)
  8. ダイバーシティ
  9. 非差別(差別件数等)
  10. 育児休業
  11. 精神的健康
  12. 身体的健康
  13. 安全
  14. 労働慣行
  15. 児童・強制労働
  16. 賃金の公平性
  17. 福利厚生
  18. 組合との関係
  19. コンプライアンス・倫理

人的資本経営開示愛児項目

(出典)『人的資本可視化指針』(内閣官房 非財務情報可視化研究会)P.6を参考に作成。https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

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