ビジネスと人権

国際社会では、20年以上前より企業に対し「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」に関する10原則の実践が要請され、10年以上前には国連で「ビジネスと人権に関する指導原則」が作られるなど、企業活動における人権尊重が注目されてきました。
日本でも、近年のSDGsへの取組が加速する中、企業には、人権を尊重した判断と行動が求められています。

企業が尊重すべき人権の分野

賃金の不足・未払、生活賃金

  • 使用者があらかじめ労働契約や就業規則で定められた賃金を、所定の支払日に支払わないこと
  • 使用者が法律で定める最低賃金額に関わらず、労働者とその家族が基本的ニーズを満たすために十分な賃金(生活賃金)の支払いを行わないこと

(参照)東京労働局ウェブサイト「未払い賃金とは」/ILOウェブサイト「賃金、給付に関するQ&A」/Living Wage Foundation ウェブサイト

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 事業を行う営業地域の最低賃金を確認せず、基準に満たない賃金を支払う
  • 管理者が、まだ残業中の労働者のタイムカードを終業時刻に合わせて打刻し残業代を支払わない
  • 深夜残業したにもかかわらず、割増賃金が一部しか支払われない
  • 退職者が賃金の支払を請求したにもかかわらず、規定の給料日までに支払わない⇒使用者は請求から7日以内に賃金を支払う義務が課されいる(労働基準法第23条)

労働者とその家族が生活する地域の物価を勘案せず、またその家族の平均生活費を考慮せず賃金を決定する

過剰・不当な労働時間

週8時間×5日の労働時間に加え、36協定で定める時間外労働の上限(月45時間・年360時間)を超えて、臨時的な特別の事情なしに、労働させること。適切な休憩の取得を妨げること

(参照)厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 繁忙期に長時間労働が続いた結果、鬱病を発症
  • 人手不足により8時間以上連続して業務が続き、適切な休憩を取得できない
  • 取引先が納期の直前に注文内容を変更し、サプライヤー内部における長時間労働を誘発
  • 裁量労働制をとっているからといって法定労働時間の総枠を超えた時間数を時間外労働と認めない
  • 非正規雇用の労働者に対して労働時間の上限を考慮しない

長時間労働対策について詳細を見る

労働安全衛生

  • 労働に関係して負傷及び疾病(人の身体、精神又は認知状態への悪影響)が発生すること
  • 快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じた労働者の安全と健康の確保が行われないこと

(参照)JIS Q 45001:2018 (ISO 45001:2018) :労働安全衛生マネジメントシステム− 要求事項及び利用の手引

労働安全衛生対策について詳細を見る

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 就業中に転倒、転落、怪我をする可能性があることへの対策を行わない
  • 工場内の換気不足による衛生状態の悪化を放置する
  • 従業員が定期健康診断を受診できない
  • 取引先の労働環境が劣悪であることを知りながら改善要請をせず取引を継続する
  • 新型コロナウイルス感染症等への従業員の感染を防止するための対策を講じない

社会保障を受ける権利

傷病や失業、労働災害、退職などで生活が不安定になった時に、健やかで安心な生活を継続するために、健康保険や年金、社会福祉制度などの仕組みによる現金・現物等の給付に差別なくアクセスする権利が侵害されること

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 労働者に対し、契約上合意された業務災害手当を給付しない
  • 企業が労働者に対して、差別的な加入要件をもつ民間の団体保険プランを提供する
  • 社会保険の加入要件を満たしている可能性があるにもかかわらず、「パート社員は社会保険に入ることができない」と伝える

パワーハラスメント(パワハラ)

パワハラの3つの要件は、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであり、③労働者の就業環境が害されるもの/改正労働施策総合推進法第30条の2単発的か反復的なものであるかを問わず、身体的、精神的、性的又は経済的害悪を与えることを目的とした、又はそのような結果を招く若しくはその可能性のある一定の許容できない行為及び慣行又はその脅威

厚生労働省「パワーハラスメントの定義について」/仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約(ILO第190号条約

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 皆の前で起立させたまま、大声で長時間怒鳴り続ける
  • 部下が仕事ができない人間であると決めつけ、何の説明もなく役職に見合った業務を与えない
  • 不要不急にもかかわらず、休みの日や夜間に出勤を要請する
  • 簡単な仕事だけを要求すること(過少な要求)
  • 取引先従業員に対して、納品物の不満について長時間電話で怒鳴り続ける

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セクシュアルハラスメント(セクハラ)

職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり、性的な言動により就業環境が害されること

(参照)厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 必要なく身体へ接触したり、食事やデートに執拗に誘う
  • 性的な事実関係を尋ねたり、個人的な性的体験談を話す
  • 業務用パソコンでアダルトサイトを閲覧し、それを見た同僚が苦痛に感じて業務に専念できない

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マタニティハラスメント(マタハラ)/パタニティハラスメント(パタハラ)

労働者の妊娠・出産や、育児のため勤務時間の制限、育児休業等の申出・取得に関して、職場において行われる上司・同僚からの言動により、当該労働者の就業環境が害されること

(参照)厚生労働省「事業主が職場における性的な言動に忌諱する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)」

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた
  • 妊娠している従業員本人の意に反して仕事を減らし、専ら雑務に業務を限る
  • 男性従業員から育児休業の希望があったにもかかわらず取得を認めない
  • 妊娠や育児を理由に時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた
  • 上司・同僚が「所定外労働の制限をしている人は大した仕事はさせられない」と繰り返し言い、専ら雑務のみさせられ、就業する上で支障が生じている

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介護ハラスメント(ケアハラスメント)

職場において、働きながら家族の介護を行う労働者に対して、介護に関する制度利用の妨害や、上司・同僚からの嫌がらせ等の言動により、当該労働者の就業環境が害されること

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 介護休業を申請する旨を周囲に伝えたところ、同僚から繰り返し批判的な発言をされ、取得をあきらめざるを得ない状況に追い込まれた
  • 介護のため所定労働時間短縮の希望を伝えたところ、上司や同僚から「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し言われ、就業をする上で看過できない程度の支障が生じている
  • 介護休業を取得したことを理由に、賃金や一時金の引き下げや人事考課での不利益な評価を受けた

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強制的な労働

処罰の脅威によって強制され、また、自らが任意に申し出たものでない全ての労働により、自由意思で働き、自らの仕事を自由に選ぶという基本的人権を侵害されること

(参照)ILO第29号 強制労働に関する条約(1930年)53 /ILO第105号強制労働の廃止に関する条約(1957年)

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 自社の海外拠点の取引先の工場で、地域住民が強制的に業務に従事させられている
  • 外国人技能実習生や外国人労働者のパスポートを取り上げて移動の自由を奪い、強制的に仕事に従事させる
  • 海外拠点で利用した人材斡旋業者が誘拐・人身取引に関与していた、又は法外な紹介手数料を労働者に請求しており、労働者が多額の債務の返済のために働かざるを得ない状況になっている

居住移転の自由

本人の意思に反して居住地や移動を決定すること

(参照)世界人権宣言第13条・国際人権規約B規約第12条

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 企業の事業活動により、地域住民が立ち退きを余儀なくされる
  • 従業員に転勤を要請したところ、本人は育児への参加が困難となるため遠方への転勤を強く拒否したにもかかわらず、転勤を強制する
  • 外国人労働者等のパスポート等を預かることで、移動を制限する

結社の自由

  • 使用者が労働者の有する労働組合加入の自由決定権を侵害したり、使用者が従業員による結社の決定を妨げたりすること
  • 労働者が労働組合に加入しない、又は労働組合から脱退することを雇用条件としたり、組合員であるという理由や、労働時間外又は使用者の同意を得て労働時間中に、組合活動に参加したという理由などで解雇されたり、その他の不利益な取扱いをされたりすること

(参照)国連グローバル・コンパクト4 分野10 原則の解説/ILO第98号 団結権及び団体交渉権条約

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 会社が、採用試験応募者に対し、労働組合に加入しないことを採用の条件として提示する
  • 会社が、労働組合の団体交渉の申入れには応じたものの、合意した開催予定日直前に期日の延期を申し入れることを繰り返し、結局、団体交渉が実施されない
  • 会社の管理職が、部下である労働組合の組合員に対して労働組合に加入していると昇進は難しいから労働組合を脱退するよう示唆
  • 使用者側が形式的にしか団体交渉に対応せず、労働条件に関連する資料請求等に正当な理由なく対応しないなど、実質的に誠実な交渉を行わない(不誠実団交)外国人労働者が労働組合に加入することを認めない

外国人労働者の権利

外国人であることを理由に賃金、労働時間その他の労働条件において差別的な扱いを受けること

(参照)厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 日本国籍でないことのみを理由に、外国人求職者の採用面接への応募を拒否する
  • 労働契約の締結に際し、日本語が理解できない外国人労働者に対して、労働条件等を日本語でのみ提示する
  • 外国人労働者の旅券、在留カードを保管する
  • 外国人労働者の退職時に当人の権利に属する金品を返還しない
  • 外国人労働者から求めがあった場合に、他の労働者との待遇の相違の内容及び理由についての説明を怠る
  • 外国人労働者の苦情や相談を受け付ける窓口の設置等の体制整備を行わない
  • 女性である外国人労働者の妊娠、出産等を理由として解雇する
  • 外国人労働者を健康指導・健康相談の対象から外す

児童労働

法律で定められた就業最低年齢を下回る年齢の児童(就業最低年齢は原則15歳、健康・安全・道徳を損なうおそれのある労働については18歳)によって行われる労働

(参照)ILOウェブサイト

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 年齢確認書類の詳細を確認せず、15歳未満の子どもを雇用する
  • 18歳未満の子どもを、建築現場や屋根の清掃現場で高所での業務、重量物の運搬を伴う作業、酒席での接待などに従事させる
  • 18歳未満の子どもを午前5事以前又は午後10時以降に深夜残業に従事させる
  • 取引先の海外工場や原料調達先の農場等で15歳未満の子どもが雇用されていた

テクノロジー・AIに関する人権問題

インターネットやICT(情報通信技術)を利用した様々なサービス、AI(人工知能)など新しい技術の普及に伴い人々の名誉毀損・プライバシー侵害や差別等の人権問題が生じること

(参照)「ビジネスと人権」に関する国別行動計画(2020-2025)

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • GPSデータを利用するシステムを通じて個人の位置情報や行動追跡が可能となり、システム利用者が監視されプライバシーが侵害される
  • AIを人材採用システムに導入した際、特定の人種や性別に不利な情報が含まれており、その情報を元に最適な人材を選定してしまうことで、公正な人材の選考が行われない
  • 顔認識技術を用いたマッチングサービスの開発において、差別的バイアスを含む生体情報データをAIが学習してしまうことで、偏見や差別に基づいたサービスが提供される
  • AIやテクノロジー製品の設計や開発、運用において、一部の人のアクセス・利用が制限される等の悪用が行われる

プライバシーの権利

  • 私生活、家族、住居、又は通信に対して恣意的、不当、又は違法に干渉したり、私生活上の事実情報、非公知情報、一般人なら公開を望まない情報をみだりに公開したりすること
  • 特に個人情報について、本人の了承を得ずに、取得、保管、公開又は第三者への提供を行うこと

(参照)国連指導原則報告フレームワーク/個人情報保護委員会「個人情報保護法ハンドブック」

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 従業員や顧客、又は他の個人に関して有する個人情報の秘密保持を怠る
  • 従業員のメール誤送信や外部からの不正アクセスにより個人情報を含むデータを紛失・漏えいする
  • 採用に際し、従業員の人種・病歴・犯罪歴等の情報を、本人の同意なく取得する
  • 採用にあたって妊娠検査を条件とする
  • 利用目的を通知せず、調査目的で店舗内で個人を特定できる映像を撮影し、本人の同意なく第三者に提供する
  • 国内法で禁じられた、又は国際人権基準に外れる国家の要請に応じて、個人の情報を本人の許可なく国家機関に提供する
  • 個人の通信や移動を追跡・モニタリングできる機器や技術を、人権についての取組が遅れている国に販売する

消費者の安全と知る権利

消費者の心身の健康を害するような製品・サービスの提供、及び製品表示等における不当表示や消費者の知る権利の侵害

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 製品の欠陥が発覚したにもかかわらず、迅速かつ適切なリコール手続きを実施しない
  • 製品の誤作動により、購入者が身体にけがを負った
  • 製品表示が誤っており、消費者が正確な産地を知ることができない
  • 明確で合理的な根拠なく、製品の感覚的な印象から「効果は3倍(他社比)」等と表示する

HACCP(ハサップ)について詳細を見る

差別

人種、民族、性別、言語、宗教、政治的及びその他の意見、国籍又は社会的出自、財産、出生、その他の状態(性的指向や健康状態、障害の有無)を含む、遂行すべき業務と何ら関係のない属性や雇用形態(正規・非正規)を理由に、特定個人を事実上、直接的又は間接的に、従属的又は不利な立場に置くこと

(参照)国際人権規約/ILOウェブサイト「差別と平等 Q&A」

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 採用・募集に当たり、「営業マン」「ウエイトレス」「男性歓迎」「女性向きの職種」等の表示をする
  • 募集又は採用に当たり、障害者に対する合理的配慮が提供されない
  • 採用の基準を満たす人の中から、性別や年齢、国籍などを基準として採用する
  • 採用、昇進昇格、退職において、業務能力や勤怠状況等の合理的理由なく差別したり不利益を与えたりする
  • 病気にかかったことを理由に本人の望まない異動を強いる
  • 非正規雇用者には在宅勤務を認めない

ジェンダー(性的マイノリティを含む)に関する人権問題

  • 生物学的・社会・文化的な性別役割に基づいて、就職の機会や賃金、労働環境などの待遇において差別又は不当な扱いを受けること
  • LGBTなど、性的指向や性自認におけるマイノリティ当事者が、職場での日常的な差別や就職活動等で不利益を被ること

(参照)厚生労働省「職場と性的指向・性自認をめぐる現状」

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

  • 男女間で賃金等の待遇に格差が生じている
  • 「男性のみ募集」「女性のみ募集」という求人のため、性別や性自認が原因で希望職種での就職活動ができない
  • 就職活動の際、履歴書の性別の記載義務により就職機会が限定されたり、採用側から「詐称ではないか」などの不当な扱いを受けたりする
  • 女性や性的マイノリティ当事者に対して、結婚や出産などライフイベントの予定を就職活動の面接で尋ねる
  • 性的指向や性自認を理由に内定取り消し、異動の強要、解雇などをする
  • 性的指向や性自認によって給与体系や賃金に差が生じる
  • 妊娠、出産を理由に昇進の機会を与えられない
  • 職場環境内での理解が進んでおらず、性的指向や性自認に基づくいじめや偏見、ハラスメントが生じている
  • アウティング(本人の同意なく性的指向・性自認に関することを第三者に暴露すること)
  • トイレや更衣室、専用相談窓口など設備や、職場の行動基準、サプライヤーの人権ポリシーなど制度的・政策的支援が整っていないため、企業側に相談できない/相談しても不適切な対応をされる

ジェンハラについて詳細を見る

表現の自由

外部から干渉されることなく意見を持ち、求め、受け取り、伝える権利を妨げること

(参照)国連指導原則 報告フレームワーク実施要領 日本語版

企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

    • NGOやジャーナリストによる自社に対する批判的な発言を妨害する(訴訟費用の負担能力において圧倒的に優位な企業が、NGO等に対して訴訟を起こすことも含む)
    • 従業員による会社や待遇に対する意見表明を禁止・抑圧する
    • 国際基準に反するにもかかわらず、国家の要請に応じてオンライン・コンテンツの検閲を行う
    • 労働者が公の場で意見表明することが法律により日常的に妨げられている国で事業を行う

    先住民族・地域住民の権利

    企業活動により、先住民族や地域住民のあらゆる人権を侵害すること

    企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

    • 企業活動により水資源が汚染され、地域住民が清潔な飲料水を入手することが困難となる
    • 大規模店舗の出店により、騒音や違法駐車が急増し、地域住民の生活に影響が生じる
    • 企業の工場による廃棄物投棄、建設物による日照不足、店舗の夜間照明等で地域住民の生活の安心・安全が損なわれる
    • 住民にとって伝統的な意義をもつ土地を、住民との正当な協議を行わずに取得し、事業活動を行う

    環境・気候変動に関する人権問題

    • 企業が自らの事業活動において環境を破壊したり、大気・土壌の汚染や水質の汚濁を引き起こしたりするなどして、地域住民の「良い環境を享受し健康で快適な環境の保全を求める権利」を奪うこと
    • 環境破壊や地球温暖化を加速させることが明らかな事業などに対し資金の提供を行うことを通じて、人権の侵害を助長すること

    (参照)日本国憲法第13条、第25条/国連指導原則 報告フレームワーク実施要領 日本語版

    企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

    • 火災や化学物質の流出などの産業事故の発生により、人命を危険に晒すとともに、周辺の環境を破壊し大気・土壌汚染や水質汚濁を生じさせる
    • 調達の過程において森林破壊や森林火災を引き起こしたり、違法伐採されたりした木材を事業活動に使用する
    • 自然分解されない資源を活用した製品が消費者により投棄され、海洋へ流出するなどして環境汚染を引き起こす
    • 再生エネルギー開発などの際に事業地の環境を破壊し、また近隣住民を土砂災害などのリスクに晒す
    • 銀行や機関投資家などが環境破壊や地球温暖化を加速させる事業に対し投融資を行う

    知的財産権

    個人や企業等に属する知的財産権(著作権や特許権等)を侵害すること

    企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

    • 個人がインターネット上に公開しているデザインを企業が公開資料に無許可で使用する
    • 従業員の業務における発明について企業から合理的な対価が支払われない

    賄賂・腐敗

    企業が事業を行う中で、不正、違法、又は背任にあたるような行為を引き出す誘因として、いずれかの人物との間で贈与、融資、謝礼、報酬その他の利益を供与又は受領すること、又は受託した権力を個人の利益のために用いること

    (参照)国連グローバル・コンパクトの10原則

    企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

    • 環境基準を満たしていないプラントに関する許認可の獲得を目的として検査機関の職員に対して金銭を提供する
    • 海外現地子会社が、実績を上げるために、影響力のある現地公務員に金銭を渡し、事業に関係する公的手続きを優先的に進めさせる
    • 通関等の手続において、手続の遅延を余儀なくされた場合、金銭や物品を提供する

    サプライチェーン上の人権問題

    企業のサプライチェーン上で人権侵害が発生すること

      企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

    • 自社の原料の調達先の工場において、労働者が劣悪な環境での労働を強いられていた
    • 取引先従業員が下請企業従業員に対してセクハラを行っていた
    • 人権侵害に加担していることが明白な企業に対して、金銭の貸付を行った
    • 医療機器メーカーの超音波技術が、途上国の農村地帯において女児と判別された胎児の中絶に使用される

    救済へアクセスする権利

    企業が人権への負の影響を引き起こした際に、被害者が効果的な救済を受けるための適切で実効的なプロセス(事業レベルの苦情処理メカニズム)へのアクセスが確保されないこと

    (参照)国連指導原則 報告フレームワーク実施要領

    企業活動に関連する人権に関するリスクの事例

    • ハラスメントを受けた従業員が利用できる相談窓口が企業に置かれていない
    • ホットラインが日本語のみで提供されており、外国人労働者が利用できない
    • 商品を利用して健康被害が出たが、お客様相談窓口が設けられていない

    企業に求められていること

    • 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」によると、国の人権保護の義務だけでなく、企業も人権を尊重する主体として、次のことを求められています。
      • 企業は、企業活動を通じて人権に悪影響を引き起こすこと、及びこれを助長することを回避し、影響が生じた場合は対処する。
      • 企業がその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の活動、商品又はサービスと直接関連する人権への悪影響を予防又は軽減するように努める。
    • 企業の規模や、運営状況、業種等に関係なく、全ての企業に対して、人権を尊重する責任を果たすことが期待されています。
    • どのような活動を行う場合でも、国際的に認められた人権を尊重することが求められています。

    企業が行うべき取組の全体像

    企業の責任として「人権を尊重する」ことが求められています。
    具体的には、人権への負の影響を防止・軽減し、救済するための具体的な措置として、大きく(a)方針によるコミットメント、(b)人権デュー・ディリジェンスの実施、(c)救済措置、の3つの行動が挙げられています。つまり、人権に関する対応方針を策定し企業としてのコミットメントを表明すること、社内外で調査を実施して人権への影響を把握・特定すること、そして特定した人権に関するリスクに対して予防策・対応策を実施し、適切な救済を提供することが求められています。

    自社事業による人権への負の影響を防止・軽減するための取組

    1.方針によるコミットメント

    企業は、人権を尊重する責任を果たすというコミットメントを企業方針として発信することが求められています。

    (1)人権方針の策定
    • 自社人権方針(人権ポリシー)の作成・公開
    • 人権への取組の責任者を含むマネジメント体制の説明 など

    2.人権デュー・ディリジェンスの実施

    企業は、人権への影響を特定し、予防し、軽減し、そしてどのように対処するかについて説明するために、人権への悪影響の評価、調査結果への対処、対応の追跡調査、対処方法に関する情報発信を実施することが求められています。この一連の流れのことを「人権デュー・ディリジェンス」と呼んでいます。

    人権方針の策定に必要な5つの要件
    1. 企業の経営トップが承認していること
    2. 社の内外から専門的な助言を得ていること
    3. 従業員、取引先及び、製品やサービス等に直接関与する関係者に対する人権配慮への期待を明記すること
    4. 一般公開され、全ての従業員や、取引先、出資者、その他関係者に向けて周知されていること
    5. 企業全体の事業方針や手続に反映されていること
    (2)人権への影響評価
    • 人権への負の影響の特定・分析・評価
    (3)教育・研修の実施-(顕在的・潜在的な負の影響に対する)予防/是正措置の実施
    • 人権研修の実施
    • ダイバーシティに関する社内啓発活動の実施 など
    (4)社内環境/制度の整備-(顕在的・潜在的な負の影響に対する)予防/是正措置の実施
    • 各種社内制度(人事・評価・働き方等)の変更・改善
    • バリアフリー設備の導入 など
    (5)サプライチェーンの管理-(顕在的・潜在的な負の影響に対する)予防/是正措置の実施
    • 「サプライヤー行動規範」の策定
    • 持続可能な責任ある原料の調達 など
    (6)モニタリング(追跡調査)の実施
    • 定期的な従業員/取引先アンケートの実施
    • 従業員の勤務状況/労働時間のモニタリング/労働組合との意見交換 など
    (7)外部への情報公開
    • 人権報告書/サステナビリティ報告書等の作成・公開
    • 人権に関するリスクの評価結果に関する情報公開 など

    3.救済措置

    人権への悪影響を引き起こしたり、又は助長を確認した場合、企業は正当な手続を通じた救済を提供する、又はそれに協力することが求められています。

    (8)(実際に引き起こされた負の影響に対応するための)苦情処理メカニズムの整備
    • 社内向けホットライン(苦情/相談窓口)の設置
    • サプライヤー向けホットライン(同上)の設置
    • お客様相談室の設置 など
    企業による苦情処理メカニズムの確立の重要性
    • 「指導原則」は、人権侵害を受けた者の救済へのアクセスを確実にするよう国家に求めると同時に、企業にも苦情処理の仕組みを検討することを求めています。
    • 「指導原則」によると、企業は悪影響を受けた個人及び地域社会のために、実効的な運用レベルの苦情処理の仕組みを構築する、又はこれに参加すべきとされています。
    • 人権関連の基準の尊重に基礎をおく業界等は、実効的な苦情処理の仕組みが利用可能であることを確保すべきとされています。