コンゴにおける人権侵害と私たちの責任

携帯電話やタブレット、ノートパソコンなど、私たちの暮らしを支えるあらゆる電子機器や電気自動車などの製造に欠かせない、コバルト、ダイヤモンド、銅、金、レアメタルなどの鉱物が原因で、世界有数の資源産出国であるアフリカのコンゴ民主共和国(以下、「コンゴ」という、)では、紛争を始め、性暴力や児童労働など、様々な問題が起きています。

コンゴでは、資金源となる鉱物を巡り、政府軍と複数の武装グループとの間で紛争が続き、この20年間で600万人近くの人が犠牲になっています。

1990年代にコンゴ国有で最大の鉱業会社が破綻すると、鉱山労働者による手掘りでの採掘が始まったのですが、2002年に、鉱業を再興させ海外からの投資を集めるためとして政府が「採掘法」を制定すると、個人の手掘り採掘者たちが採掘できる区域が制限されたため、手掘り採掘者の多くは無認可の鉱山や鉱業会社が所有する土地に不法侵入して採掘するようになりました。
そのため、労働者の安全や労働環境を守る政府の管理が行き届かなくなった(見過ごされている)ことに加え、政府関係者や警備会社が採掘労働者に金銭の支払いを求め違法に受け取っているということです。

鉱物の手掘り採掘には健康被害や事故が伴います。
粉塵は、呼吸器過敏症、喘息、息切れ、肺機能の低下、塵肺症といった深刻な肺疾患を招く恐れがあり、またコバルトが皮膚に接触し続けると、皮膚炎を発症するそうです。
さらに、鉱山は何十メートルも地下深くに広がっていて、換気が不十分で、落盤も珍しくなく死亡事故が多発しているということです。
この危険で過酷な採掘に、家計を支えるために何万人もの子どもが関わっているといいます。
学校の合間に、あるいは学校に行かずに、長時間、長期間、年中働いていて、教育の機会が奪われ、健康被害も問題視されています。

子どもが採掘現場で働くという「最悪の形態の児童労働」への対応が不十分であると、国際的に厳しい批判を受けてきたコンゴ政府ですが、改善は進んでいません。

レアメタルやコバルトなどの需要が伸びるほどに乱開発が進み紛争や人権侵害も続くという国際的な悪循環に陥っているのです。
パソコンの部品や電池などのリサイクルを増やすことによりコンゴの鉱山への依存度を下げるのも、重要な取組の一つですが、それだけでは規制の効果は限定的であるため、コンゴ政府やアフリカ周辺国、欧米諸国の政府による協力機関、民間団体が協力して取り組むシステムに、資金と人手を割き、支援を強化することが求められます。

レアメタルやコバルトなどの鉱物はいくつもの国をまたいで取引されるため、世界でも日本でも、ほとんどの企業ではその出どころ、つまり製錬段階まで遡り、どこで、人権侵害や不法行為などについてどのような状況で採掘されたものなのか、を特定できていません。
レアメタルなどのサプライチェーンに関わる企業には、人権デューディリジェンスを実施し公開する透明性が求められます。

国際社会もこれまでに、OECDや欧米が乗り出し、紛争鉱物取引の規制を強化するなど対策を講じてきました。
ただ、紛争鉱物取引規制にもネガティブな効果があります。
鉱山からの武装勢力の撤退については一定の効果が得られましたが、鉱山労働者や小規模な鉱山ビジネスに従事していた住民は生計手段を失い生活状況は悪化、武装勢力も鉱物からの利益が得られなくなったことにより周辺住民への略奪行為を増加させ、人道状況も悪化しました。

今後は、国際社会からコンゴ政府に対し改善要求の圧力を強めること、国際社会が直接住民を支援できる仕組みをつくること、そして何より、私たちがコンゴの現状に関心を持ち、声を上げることが大切です。

私たちが暮らしや仕事で使用するあらゆる電子機器に、コンゴ産の鉱物が使用されているにも関わらず、私たちはこのような「コンゴにおける人権侵害」に無関心で、無知でいます。
消費者として何かを買うときに、その製品にはどこでどのように誰の犠牲のもとに産出された資源が使われれいるのかを、考える、聞く、知ることが、まず私たちがするべき人権活動です。

出典・参考

NHK『国際報道』(2022年2月4日放送)
https://www.nhk.jp/p/kokusaihoudou/ts/8M689W8RVX/episode/te/J96M6781GN/

アムネスティ・インターナショナル レポート
https://www.amnesty.or.jp/library/report/pdf/drc_201606.pdf

東洋経済オンライン『コンゴの性暴力を止める責任は日本にもある』(東京大学政策ビジョン研究センター・華井和代氏)
https://toyokeizai.net/articles/-/243038