イランの人権問題

(この記事は、NHKの報道内容をまとめたものであり、当社が独自に取材したものではありません。)

国連の人権理事会は、イランで続く抗議デモの参加者に対し治安当局が弾圧を行い、多くの死者が出ていることについて、現地の実態を調べる独立した調査団の設置を決めました。

2022年9月13日、イランの首都ヘランを旅行中の22歳の女性、マフサ・アミニさんが、スカーフのかぶり方が不適切で、髪が大きくはみ出ているとの理由で、風紀の違反を取り締まる警察(風紀警察)に逮捕され、その3日後に死亡しました。

警察は当初、「心臓発作が原因だ」と説明しましたが、取調べ中に暴力を受けたためだとする民衆が、抗議デモを始め、デモは全国各地に広がり、治安部隊との衝突で大勢の死傷者と逮捕者が出ていますが、いまだ沈静化する兆しはなく、抗議デモは各国にも広がり、国際的な問題にもなっています。
人権団体によると、これまでに300人以上が死亡していると指摘されています。

これを受けて、国連の人事理事会は、11月24日、スイスのジュネーブで、特別会合を開きました。
トゥルク人権高等弁務官は、「事態を容認できない。死亡したアミニさんについてのイラン政府による調査も透明性や中立性を欠いている」と述べ、徹底した調査の必要性を訴えました。

出入国在留管理庁の仮訳による「イラン人権報告書2020年版」で、「著しい人権問題として非常に数多く報告されている」とされているのは、次の事項などです。

  • 不法又は恣意的な殺害(最も頻繁なものは,少年犯罪者も含め,「最も重大な犯罪」の国際的な法的基準を満たさない程度の罪を犯した人に対する処刑や公正な裁判を経ることなく実行される処刑)
  • 政府職員による強制的失踪及び拷問,並びに恣意的な拘禁や投獄の組織的な実施
  • 過酷かつ生命を脅かす刑務所の状況
  • 数百人の政治犯及び政治的な被拘禁者
  • 司法の独立性,特に革命裁判所に関する深刻な問題
  • プライバシーに対する不法な干渉
  • 表現・報道・インターネット利用の自由に対する厳しい制限(ジャーナリストに対する暴力,暴力を加えるという脅し,不当な逮捕及び訴追,検閲,サイトのブロック,中傷及び名誉毀損の非合法化などを含む)
  • 平和的集会や結社の自由への著しい干渉
  • 宗教的自由の厳しい制限
  • 候補者の恣意的な審査による政治的参加への制限
  • 政府のあらゆるレベルにまん延する腐敗
  • 女性に対する暴力についての有意義な捜査及び説明責任の欠如
  • シリアのアサド政権を支援するための政府関係者による少年兵の不法な徴兵
  • 人身売買
  • 少数民族への暴力
  • レズビアン,ゲイ,バイセクシャル,トランスジェンダー及びインターセックス(LGBTI)に該当する人々を標的とした暴力又は暴力の脅迫を伴う犯罪
  • 同性同士の同意に基づく性行為の非合法化
  • 労働者の結社の自由に対する著しい制限
  • 最悪の形態の児童労働、等

しかし、イラン政府は、有効な方策を講じたことはありません。

イランでは、2009年にも大統領選挙に不正があったとして民衆の大規模な抗議デモが起きたほか、2019年にはガソリンの値上げに抗議する民衆のデモが起きていますが、その都度、治安当局が徹底的な取り締まりで鎮圧してきました。

今回の抗議デモがこれほどまでに広がるとは、イランの指導部は予想していなかったと見られます。
ライシ大統領は徹底的に取り締まる考えを強調し、最高指導者ハメネイ師もアメリカとイスラエルの陰謀だとする見解を示し、決して容認しない姿勢を強調しています。

今回の抗議デモに参加したのは、インターネットやSNSを使いこなし、外国の文化や価値観に触れる機会が多い、女性を多く含む若者です。
現地の映像では、女性たちが自らのスカーフを脱ぎ捨てたり、長い髪を切り落としたりして抗議する場面や、警察の車が放火される場面などが見られます。

抗議の動きは、海外にも広がっています。
イラン政府に弾圧をやめるよう求めるデモが、日本を含む世界各地で起きています。

抗議デモへの対応をめぐって、イランは国際社会から非難され、新たな制裁を受けています。
このことは、崩壊の危機にある「核合意」を立て直すため、イランとアメリカとの間で行われてきた間接協議にも悪い影響を与えそうです。

こうした中、イランは、ウクライナへの侵攻で国際的に孤立するロシアに接近しています。
ウクライナや欧米の政府、および、メディアは、イラン製の無人機がロシアに大量に供与され、ウクライナへの攻撃に使用されていると指摘しています。
イラン政府はこれを否定していますが、ウクライナ政府は、イランに対する非難を強め、国交を断絶することも検討しています。

イランで起きている抗議デモは、今後の広がり方とイラン指導部の対応次第では、非常に多くの市民の命が失われる悲劇を招くおそれ、あるいは、体制を揺るがす事態に発展する可能性もはらんでいます。
さらに、核合意の立て直しを目指す関係国の外交努力や、ウクライナ情勢にもマイナスの影響を与えると予想されます。
今後、イランの内外で繰り広げられる、さまざまな攻防から、目を離すことはできません。

NHK解説委員室『イラン 拡大する抗議デモ』
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/474941.html

NHKニュース『イランで続く抗議デモ “参加者に弾圧” 国連が調査団設置決定』
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221125/k10013902981000.html

法務省資料『イラン人権報告書2020年版』
https://www.moj.go.jp/isa/content/001368776.pdf

投稿者

株式会社 ケンズプロ
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