介護に直面した社員が離職せずに就労継続できる意識・体制・環境づくりを進めましょう。
「仕事と介護の両立」の現状
40〜50歳代正社員の8割近くが、仕事と介護を両立することに不安を持っています。
下記のような不安から、年間約10万人と多くの方が退職しますが、介護のために離職すると、精神的、肉体的、経済的な負担が増加しているのが現状です。
介護に専念するために離職しても、決して精神的、肉体的に楽になるわけではありません。
介護に直面しても簡単には退職しないこと、企業としては介護に直面した社員を簡単には辞めさせず両立を支援することが大切です。
- 高齢化に伴い、「要介護高齢者」は増加傾向。
- 介護をする人は、平成3年以降の20年間で約2倍に増加。
- 介護をする人に占める男性の割合も増加傾向。
- 40〜50代正社員の7〜8割が仕事と介護の両立に不安を持つ。
- 介護に関する具体的な不安の例
- 公的介護保険制度の仕組がわからないこと
- 介護がいつまで続くかわからず、将来の見通しが立てにくいこと
- 仕事を辞めずに介護と仕事を両立するための仕組がわからないこと
- 適切な介護サービスが受けられるかどうかわからないこと
- 勤務先の介護に関わる支援制度がない、もしくはわからないこと
- 介護休業等を職場で取得して仕事をしている人がいないこと
- 自分が介護休業を取得すると収入が減ること
- 代替要員がおらず、介護の為に仕事を休めないこと
- そもそも労働時間が長いこと
- 地域での介護に関する相談先がわからないこと
- 勤務先の介護にかかわる制度はあっても、利用しにくい雰囲気があること
- 介護のために離職すると、精神的、肉体的、経済的な不安が増加。→介護に専念しているにも関わらず負担増。介護離職で楽になるわけではないことを企業から伝えるべき。
- 企業の、従業員の介護実態把握状況をみると、「特に把握していない」企業が半数近く。→把握している企業は、面談・自己申告制度・アンケート等により把握している。
- 手助けや介護をしている就労者の、介護について上司や同僚に知られることへの抵抗感は「あまりない」「ない」とする人が7割を超え、抵抗感はそれほど強くない。→企業は実態把握するべき。
- 手助けや介護について、勤務先に相談した人の割合は極めて低い水準。→相談しやすい雰囲気、相談できる体制を整えることが大切。
- 介護のために離職した人が、離職前に両立支援制度を利用しなかった理由は、「〜制度がないため」「〜制度がわからないため」「相談する部署等がないこと、もしくはわからないため」が上位。→企業は従業員に両立支援制度や相談体制を周知するべき。
様々な両立支援制度
介護をする方は、退職を決める前に、仕事と介護の両立を支援する様々な制度があることをご確認ください。
介護休業
要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として分割して休業を取得することができます。
有期契約労働者も要件を満たせば取得できます。
介護休暇
通院の付き添い、介護サービスに必要な手続きなどを行うために、年5日(対象家族が2人以上の場合は年10日)まで1日又は半日単位で介護休暇を取得することができます。
所定外労働の制限(残業免除)
介護が終了するまで、残業を免除することができます。
時間外労働の制限
介護が終了するまで、1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働を制限することができます。
深夜業の制限
介護が終了するまで、午後10時から午前5時までの労働を制限することができます。
所定労働時間短縮等の措置
事業主は、利用開始の日から3年以上の期間で、2回以上利用可能な次のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制
- 時差出勤の制度
- 介護費用の助成措置
※労働者は、措置された制度を利用することができます。
不利益取扱いの禁止
介護休業等の制度の申出や取得を理由とした解雇など不利益な取扱いは禁止されています。
ハラスメント防止措置
上・同僚からの介護休業等を理由とする嫌がらせを防止する措置を講じることが事業主に義務付けられています。
企業が取り組むべきこと
企業の「社員の介護に関する実態把握」の現状をみると、特に把握していない企業が半数近くに上ります。
「プライベートな話だから」「本人も触れてほしくないのでは」と考えてのことのようですが、実際には、介護について上司や同僚に知られることの抵抗感は「あまりない」「ない」と考える人が7割超で、抵抗感はそれほど強くないのが実のところです。
ゆえに企業は遠慮し過ぎず実態を把握すべきです(無理やり・むやみに把握しようとしてはなりません)。
社員が手助けや介護についての相談先として選ぶのは、家族・親族やケアマネジャーが主で、勤務先に相談する割合は極めて低くなっています。
しかし仕事との両立については勤務先に相談するのが最善ですので、企業としては相談しやすい雰囲気や体制を作ることが大切です。
そのためにもまずは社員の実態把握を行い、「会社は社員の介護を尊重し理解し協力しますよ」というメッセージを伝えましょう。
ポイント
- 両立を支援することを伝える
- 管理職は、人事労務担当者に相談し必要な情報を得るよう社員に伝える
- 地域包括支援センター等で地域の支援情報をしっかり把握するよう伝える
- 三者面談で当面の支援方針を共有する
- 介護の体制ができてきたら、両立のための「介護支援プラン」作成を支援する
- 「介護支援プラン」を活用し、職場では社員本人に期待する役割は変えず、仕事量や働き方の調整を支援する
- 定期的に人事労務担当者と上司が共に、フォロー面談を行う
勤務先の両立支援制度を利用しない理由
- 介護に係る両立支援制度がないため
- 自分の仕事を代わってくれる人がいないため
- 家族・親族の理解・協力が十分に得られたため
- 在宅勤務等の柔軟な働き方で対応しているため
- 相談する部署等がないこと、もしくはわからないため
- 介護事由で両立支援制度を使用している人がいないため
- 介護に係る両立支援制度を利用すると収入が減るため
- 介護に係る両立支援制度を利用しにくい雰囲気があるため
- 上司・同僚が利用することを望まないため
- 人事評価に悪影響が出る可能性があるため
- どのように両立支援制度と介護サービスを組み合わせれば良いかわからないため
仕事と介護の両立支援対応モデル
1.社員の仕事と介護の両立に関する実態把握
(1)全社的なアンケートやヒアリングの実施
①属性(役職、雇用形態など)
②介護に関する状況(介護の有無、介護に関する不安など)
③仕事や職場の状況(労働時間、休暇など)
(2)人事面談などを通じた上司による把握
(3)制度利用者などの介護経験者を対象としたヒアリング
【実態把握調査票】「介護に関するアンケート」(PDF)
※厚生労働省資料「仕事と介護の両立支援実践マニュアル(企業向け)」を一部編集して作成
2.制度設計・見直し
実態把握や以下の確認事項を踏まえ、自社の両立支援制度を点検し、課題があれば見直しを行いましょう。
見直しにあたっては、労働組合や社員と意見交換を行い、導入や変更をする上での課題と対策を検討し、よく準備した上で実施します。
【制度設計・見直しを行う際に確認すべき点】
- 法定の基準を満たしているか(育児・介護休業法に定められている介護休業制度、介護休暇制度等)
- 自社の制度の趣旨や内容が、社員に周知されているか(介護休業の趣旨:「仕事と介護の両立に向けた準備期間」や「看取り」などでの利用)
- 自社の制度の利用要件がわかりやすいか、利用手続きは煩雑でないか
- 自社の制度が、社員の支援ニーズに対応しているか(長期的な休業・短期の休暇取得/半日や時間単位での就労時間の調整/遅刻、早退、中抜けなどの柔軟な対応等)
【厚労省】「『仕事と介護の両立支援制度』を周知しよう」チェックリスト
3.介護に直面する前の社員への支援
ハンドブックの作成、イントラネットへの情報掲載、セミナー開催などを通じ、介護に関する基本的な知識や情報、実際に介護に直面した際の仕事と介護の両立のイメージを提供し、従業員自身が介護について事前準備を行えるよう支援しましょう。
【具体的に取り組むべきこと】
- 仕事と介護の両立を企業が支援するという方針の周知
- 「介護に直面しても仕事を続ける」という意識の醸成
- 企業の仕事と介護の両立支援制度の周知(ハンドブックの作成・配布、イントラネットへの情報の掲載、研修・セミナー等の開催)
- 介護について話しやすい職場風土の醸成(定期的な面談、相談窓口等)
- 介護が必要になった場合に相談すべき「地域の窓口」の周知
- 親や親族とコミュニケーションを図っておく必要性のアピール
【厚労省】「親が元気なうちから把握しておくべきこと」チェックリスト
4.介護に直面した社員への支援
自社の両立支援制度や公的な介護保険制度の内容や活用方法についての相談窓口の情報提供が基本。
上司・管理職が社員の支援ニーズにいち早く気づくことができるよう、社員が相談しやすい体制を整備することが重要です。
【具体的に取り組むべきこと】
- 相談窓口での両立課題の共有
- 企業の仕事と介護の両立支援制度の手続き等の周知
- 働き方の調整(休業・休暇取得、残業削減、フレックスタイム制度、在宅勤務制度の活用、早出・遅刻や早退など就労時間帯の調整等)
- 職場内の理解の醸成(周囲の社員への説明、上司によるフォロー等)
- 上司や人事による継続的な心身の状態の確認
- 社内外のネットワークづくり
【厚労省】「従業員から介護に関する相談を受けた際に対応すべきこと」チェックリスト
【厚労省】「ケアマネジャーに相談する際に確認しておくべきこと」チェックリスト
5.働き方改革
長時間労働の見直しや年次有給休暇の取得促進といった「働き方の見直し」はもちろん、仕事上の情報共有などの「仕事の見える化」や、個人の事情をお互いさまと理解し合える職場風土づくり」が大切。
【具体的に取り組むべきこと】
- 通常の働き方の見直し(恒常的な長時間労働の見直し、「仕事の見える化」等)
- 多様なニーズに即した柔軟な働き方の提供(勤務時間、始業・終業時刻、働く場所などについての多様な選択肢)
ケアハラスメント(ケアハラ)について
社員が介護をすること又は介護休業等の申出・取得等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをしたり、嫌がらせをしたりすることをケアハラスメント(ケアハラ)といいます。
「トモニン」マークの活用
トモニンとは、「仕事と介護の両立ができる職場環境」整備のための厚生労働省公式シンボルマークの愛称です。
仕事と介護を両立できる職場環境の整備に取り組んでいる企業が使用できます。
「両立支援のひろば」(https://ryouritsu.mhlw.go.jp/)に仕事と介護の両立に関する取組を登録し、使用規程に沿って活用しましょう。
(以上、出典)
このページは全て、厚生労働省のウェブサイト及び資料より抜粋し当社にて編集を行い掲載しています。
- 厚生労働省委託 仕事と介護の両立支援事業(三菱UFJリサーチ&コンサルティング) 『「介護支援プラン」普及研修「仕事と介護の両立支援に向けて(2016年10月)
- 厚生労働省 動画『仕事と介護の両立に向けて』
ケンズプロのサポート
支援プランの作成、各種研修、面談への同席、働き方改革コンサルティング等により、介護に直面しても仕事を続けられる体制づくり・職場づくりをサポートいたします。
- 三者面談への同席(四者面談)
- 社外相談窓口
- 両立支援制度設計・規程作成
- 役員への、両立支援の必要性・制度等の説明
- 管理職への対応研修
- 一般社員への(就労継続意識・風土醸成を目的とした)研修
- 仕事と介護の両立支援プランの作成支援
- 働き方改革・業務改善コンサルティング、等