医療、介護、建設、流通、小売等・・・当社の関与先様は、体力的及び精神的に負担の大きな業種が多いです。
心理的負荷の大きな業務内容に加え、ハラスメントや長時間労働なども常態化しやすく、メンタルヘルス不調を来すケースが少なくありません。
心身ともに健康であればこそ、良い仕事ができます。
労働者に仕事の質を求めるなら、過酷なノルマ、低い賃金、危険や緊張を伴う業務、過重労働、汚染された職場環境、ハラスメントやいじめが横行し信頼を築けない人間関係などを改善し、健やかに働ける条件を整えることが事業主には求められます。
またそれは、事業主が果たすべき安全配慮義務でもあります。
メンタルヘルス不調をもたらす要因と対策
メンタルヘルス不調は、業務量や業務の質、人間関係、環境など、様々な要因により起こります。
業務による心理的負荷
- 事故や災害の体験
- 仕事の失敗
- 過重な責任の発生
- 仕事の量・質の変化 等
業務以外の心理的負荷
- 自分の出来事
- 家族・親族の出来事
- 金銭関係 等
個体側要因
- 既往歴
- アルコール依存状況
- 生活史(社会適応状況) 等
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120427.pdf
事故や災害の体験
- (重度の)病気やケガをした
- 悲惨な事故や災害の体験、目撃をした
仕事の失敗、過重な責任の発生等
- 業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした
- 会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした
- 会社で起きた事故、事件について、責任を問われた
- 自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた
- 業務に関連し、違法行為を強要された
- 達成困難なノルマが課された
- ノルマが達成できなかった
- 新規事業の担当になった、会社の建て直しの担当になった
- 顧客や取引先から無理な注文を受けた
- 顧客や取引先からクレームを受けた
- 大きな説明会や公式の場での発表を強いられた
- 上司が不在になることにより、その代行を任された
仕事の量・質
- 仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった
- 1か月に80時間以上の時間外労働を行った
- 2週間以上にわたって連続勤務を行った
- 勤務形態に変化があった
- 仕事のペース、活動の変化があった
役割・地位の変化等
- 退職を強要された
- 配置転換があった
- 転勤をした
- 複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった
- 非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた
- 自分の昇格・昇進があった
- 部下が減った
- 早期退職制度の対象となった
- 非正規社員である自分の契約満了が迫った
パワーハラスメント
- 上司等から身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた
対人関係
- 同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた
- 上司とのトラブルがあった
- 同僚とのトラブルがあった
- 部下とのトラブルがあった
- 理解してくれていた人の異動があった
- 上司が替わった
- 同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された
セクシュアルハラスメント
- セクシュアルハラスメントを受けた
企業が講じるべき対策
精神疾患は、一度発症すると治癒が難しく、時間がかかります。また、治癒に至らず自死に終わる事案もあります。
不調になってから対応するのではなく、「予防」が大切です。
不調をもたらし得る要因を取り除くことが、最も重要なメンタルヘルスケアです。
- 複数の相談窓口の整備(社内・産業医・社会保険労務士等)
- 代表者や上司と部下が「腹を割って話す」キャリア面談の定期的実施
- 過重労働の是正
- 職場のハラスメント撲滅対策
- 物理的な職場環境の改善
- 上司から部下への声かけを促す
- 褒める・承認する・肯定するコミュニケーションの推奨
- 公平かつ適正な評価 等
メンタルヘルスチェック
周囲はもちろん、本人も気づかないうちに無理をして不調を来してしまうことがあります。
下記のラインチェックをしてみて、不調が疑われる部下がいる場合には、本人に声をかけ、対応を検討してください。
業務の量の問題か、質の問題か、働き方に原因があるのか、それとも本人の問題か・・・本人からのヒアリングと、出勤簿や日報などから分析し、問題点の改善に努めます。
精神的な不調がある場合、対応を一歩間違えると命に関わります。
本人と話し合った上で、産業医や専門医へつなぐことも大切です。
ラインチェック
部下や同僚、ご家族についてチェックしてみてください。
- 以前よりも集中力、決断力が低下したようだ
- 仕事や家事でミスが増えた
- 部下の育成や仕事内容、業務量などについて悩み事の尽きない職務についている
- 会社に遅刻したり欠勤したりすることが増えた
- 毎晩午後10時以降に帰宅する(※家を出てから帰るまでの時間が14時間以上である)
- 休日出勤が多い
- 宿泊を伴う出張が多い
- 魂が抜けたようにボーッとしていることが増えた
- 顔色が悪かったり、下を向いていたり、ため息が多かったりと、気分が沈んでいるようだ、へとへとの様子だ
- 何に対しても興味がわかず、楽しめないようだ
- 疲れを感じやすく、気力がわかないようだ
- いらいらしたり、落ち着きがなかったりするようだ
- 笑わなくなった、無表情になった
- 突然怒り出したり、泣き出したりと、感情の起伏が激しくなった
- 寝ぐせや服のシワなどが目立ち、以前よりもだらしなくなった
- 身の回りの整理整頓をしなくなった、不潔になった
- 極度に潔癖症になった、手の洗い方が極度に丁寧になった
- 以前よりも酒量が増えた、または毎日寝酒をしている
- 家に帰りたがらない
- 同僚や友人、家族との会話や交流、接触を避けるようになった
- 食欲が低下、または体重の増減が激しいようだ
- 寝付けない、夜中や早朝に目が覚めるようだ
- 睡眠時間が不足しているようだ
- しばしば強い眠気に襲われるようだ
- 起床時や出勤時、前日の疲れが残っているようだ
- 動作や話し方が以前よりも遅くなった
- 新聞やテレビを見なくなった
- 体の調子が悪そうだ。特に、腹痛、嘔吐、頭痛、めまいなどがあるようだ
- 重症の身体の病気に罹患した
- 会社に行きたがらない。転職や退職などを口にするようになった
- 家でも仕事のことが気にかかって仕方ないようだ
- 家でゆっくりくつろいでいることはほとんどない
- 口数が減り、「自分はだめな人間だ」「どうせ自分なんて」など否定的な発言が増えた
- 「死」「自殺」を口にするようになった
- 最近、自身にとって価値あるものや人を失った
- 常にビクビクしていて、何かに怯えているようだ
セルフチェック
仕事について
- 非常にたくさんの仕事をしなければならない
- 休日も出勤することが多い
- 不規則な勤務である
- 深夜勤務がある
- 宿泊を伴う出張が多い
- 時間内に仕事が処理しきれない
- 一生懸命働かなければならない
- かなり集中する必要がある
- 高度の知職や技術が必要なむずかしい仕事だ
- 勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない
- からだを大変よく使う仕事だ
- 自分のペースで仕事ができない
- 自分で仕事の順番・やり方を決めることができない
- 職場の仕事の方針に自分の意見を反映できない
- 自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない
- 部署内で意見のくい違いがある
- 私の部署と他の部署とはうまが含わない
- 私の職場の雰囲気は友好的とはいえない
- 私の職場の作業環境(衛生、騒音、照明、温度、換気など)は良くない
- 仕事の内容が自分に合っているとは思えない
- 働きがいを感じない
- 仕事のため家を出てから帰るまでの時間が14時間以上である
最近1か月間の自身の状況について
- 仕事や家事に集中したり、決断したりすることができない
- 仕事や家事でミスが増えた
- 仕事のことで悩みがある、家でも仕事のことを考えてしまう
- 会社に遅刻したり欠勤したりすることが増えた
- 会社に行きたくない
- ほとんど一日中ずっと気分が沈んでいる、ゆううつだ
- 何に対しても興味がわかず、楽しめない、おっくうだ
- 食欲が低下、または体重の増減が激しい
- 寝付けない、夜中や早朝に目が覚める
- 睡眠時間が不足していると感じる
- ときどき強い眠気に襲われる
- 朝起きたとき、疲れが残っている
- 以前よりも酒量が増えた、または酒を飲まないと寝付けなくなった
- 動作や話し方が以前よりも遅くなった
- いらいらして落ち着きがなく、不安だ
- 疲れを感じたり、気力がわかなかったりする
- 同僚や友人、家族との会話がおっくうだ、話したくない
- 新聞やテレビを見なくなった
- 人との接触を避けるようになった、会いたくない
- 家でゆっくりくつろぐことができない、家に帰りたくない
- 動悸や脈が速くなったり、強く打ったりする
- 手のひらに汗をかいたり、冷や汗をかいたりする
- 全身のふるえや手足のふるえが起きる
- 息切れや息苦しさを感じる
- 窒息感、または喉がつまった感じがする
- 胸の痛みや圧迫感、不快感がある
- 吐き気や胃の不調、突然の下痢が起きる
- めまい、ふらつき、または気が遠くなる感じがする
- 体の一部がうずいたり、しびれたりする
- ほてったり、寒気を感じたりする
- 現実感がなく、自分が自分でないような感覚が起きる
- 自分をコントロールできず、気が狂ってしまいそうな恐怖におそわれる
- 自分に価値が無い、または申し訳ないと感じる
- この世から消えてしまいたいと思うことがある
- このままでは死んでしまうという恐怖を感じる
- 最近笑っていない、笑えなくなった
- ときどき無性に泣きたくなったり、突然涙が出たりする
- 重症の身体の病気に罹患した
- 最近、自身にとって価値あるものや人を失った
不調が疑われる場合の対応
メンタルヘルス不調が疑われる労働者がいる場合は、年次有給休暇や病気休暇などによる受診、療養を促し、欠勤が続いた場合には、就業規則の休職規定に基づいて休職させます。
休職について
労働者が労務を提供できない又は提供することが不適切である事由が生じた場合に、使用者が労働者に対し、労働契約関係そのものは存続させつつ労務提供を免除又は拒否することを、休職といいます。
労働者が業務外の傷病(私傷病)により長時間欠勤し、又は完全な労務提供ができない場合に、債務不履行による解雇を一定期間猶予するものです。
本来であれば、労働者の義務である労務提供がなされていないのですから、普通解雇が相当といえますが、普通解雇の合理的理由を立証するのは容易ではなく、トラブルが生じやすいのが実情です。
休職は、労働者側に改善の機会を与えるという意味で、解雇手続の相当性の一部を担保する意義を有しています。
労働者がメンタルヘルス不調により一定期間欠勤した場合には、就業規則に基づく休職により改善を待つのが一般的です。
そして、治癒の見込みがなく復職できないまま休職期間が満了した場合には、就業規則に基づき退職又は普通解雇となります。
復職
精神疾患の完治には通常長い期間を要し、また使用者が復職基準として定める「治癒」に至っているのかどうか判断することも素人には困難です。
就業規則では、労働者が復職するためには休職の原因となった私傷病が治癒し、従来の業務、すなわち当該労働者が使用者との間で締結した労働契約の内容を、健康時と同様に遂行できる程度に回復していなければならないことを明記します。
その上で、復職手続として、医師の治癒証明(診断書)の提出を労働者に義務付けます。
提出される診断書について、厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」において、「現状では、主治医による診断書の内容は、病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、それはただちにその職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らないことにも留意すべきである。また、労働者や家族の希望が含まれている場合もある」と指摘されているとおり、使用者としては診断書の真意を確認する必要があります。
そのため、復職手続の一環として、使用者と主治医との面談が実現するよう労働者に協力を義務付けるのが望ましいでしょう。
診断書、主治医との面談を経てもなお、復職を認めるべきか判断に迷う場合もあります。
「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、「主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応について判断し、意見を述べることが重要となる」と記載されており、産業医等会社指定の医師への受診を義務付ける規定も必要と考えられます。
復職の取消し
精神疾患の再発等により休職が繰り返されると、労務及び経営に支障が生じるため、一定期間内に同一ないし類似の事由により通常の労務提供ができなくなった場合には、復職を取り消すことを定めるべきです。
段階的な復職
一般的には、「柔軟な働き方」により徐々に職場復帰を進めていきます。
柔軟な働き方
- 短時間勤務
- 始業時刻の繰下げ、終業時刻の繰上げ
- 時間外労働及び深夜労働の禁止
- 交代勤務の制限
- 軽易な業務への従事
- テレワーク
- 休憩時間や通院時間への配慮 等