カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
UAゼンセン流通部門が公表している「悪質クレームの定義とその対応に関するガイドライン」では、顧客からのハラスメント(以下、「カスタマーハラスメント」という。)を「要求内容、又は、要求態度が社会通念に照らして著しく不相当であるクレームや顧客からの迷惑行為」と定義しています。
このガイドラインでは、カスタマーハラスメント問題の難しさとして悪質性の判断の困難さを指摘していますが、同時に、「業界団体が司法判断の他に、顧客からのハラスメントの判断基準を持ち、さらに企業や業界団体が基準を共有することによって、社会的事実として慣習法上のルールを形成し、企業が自発的・積極的にハラスメントへの対応を行いやすくする」としています。
企業及び業界団体が判断基準を作り共有することで、カスタマーハラスメントへの対応がしやすくなるということです。
(参考)厚生労働省資料「顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議(2021年1月21日)UAゼンセン資料」
厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント企業対応マニュアル」では、「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。
目次
Toggleカスタマーハラスメントの判断基準
- 顧客等の要求に妥当性はあるか
- 要求を実現するための手段・態様が社会通念に照らして相当な範囲か
以上は尺度の一例です。
顧客等の行為への対応方法は、企業ごとに違いがあります。
各社で予め判断基準を明確にした上で、企業内の考え方、対応方針を統一して現場と共有しておくことが重要です。
カスタマーハラスメント(カスハラ)の行為例
- 一定時間を超える長時間の拘束、居座り
- 長時間の電話
- 時間の拘束、業務に支障を及ぼす行為
- 頻繁に来店し、その度にクレームを行う
- 度重なる電話
- 複数部署にまたがる複数回のクレーム
- 大声、暴言で執拗にオペレーターを責める
- 店内で大きな声をあげて秩序を乱す
- 大声での恫喝、罵声、暴言の繰り返し
- 電話対応での揚げ足取り
- 自らの要求を繰り返し、通らない場合は言葉尻を捉える
- 同じ質問を繰り返し、対応のミスが出たところを責める
- 一方的にこちらの落ち度に対してのクレーム
- 当初の話からのすり替え、揚げ足取り、執拗な攻め立て
- 脅迫的な言動、反社会的な言動
- 物を壊す、殺すといった発言による脅し
- SNSやマスコミへの暴露をほのめかした脅し
- 優位な立場にいることを利用した暴言、特別扱いの要求
- インターネット上の投稿(従業員の氏名公開)
- 会社・社員の信用を毀損させる行為
- 言いがかりによる金銭要求
- 私物(スマートフォン、PC等)の故障についての金銭要求
- 遅延したことによる運賃の値下げ要求
- 難癖をつけたキャンセル料の未払い、代金の返還要求
- 備品を過度に要求する(歯ブラシ10本要望する等)
- 入手困難な商品の過剰要求
- 制度上対応できないことへの要求
- 運行ルートへのクレーム、それに伴う遅延への苦情
- 契約内容を超えた過剰な要求
- マスク着用、消毒、窓開けに関する強い要望
- マスクをしていない人への過度な注意の要望
- 顧客のマスクの着用拒否
- 特定の従業員へのつきまとい
- 従業員へのわいせつ行為や盗撮
- 事務所(敷地内)への不法侵入
- 正当な理由のない業務スペースへの立ち入り
カスタマーハラスメントに関する企業の責任
企業及び事業主として適切な対応をしていない場合、被害を受けた従業員から責任を追及される可能性がありますが、企業としてカスタマーハラスメント対策を十分に講じていたことで、安全配慮義務の責任を免れた裁判事例もあります。
企業、組織は、カスタマーハラスメントに対し十分な対応をとることが重要です。
【判例】カスタマーハラスメントに対する不適切な対応により損害賠償責任が認められた事例
私立小学校の教諭が児童の保護者から理不尽な言動を受けたことに対し、校長が教諭の言動を一方的に非難し、また、保護者の勢いに押されその場を穏便に収めるために安易に当該教諭に対し保護者への謝罪を求めたことについて、不法行為と判断され、A市(小学校を設置する市)及びB県(教員の給与を支払う)は損害賠償責任を負うと判断された。
カスタマーハラスメント(カスハラ)対策の必要性
カスタマーハラスメントは、従業員、企業、他の顧客等に、甚大な影響を及ぼします。
特に、従業員への影響として、精神的な負担が大きく、業務のパフォーマンスが低下する他、深刻な場合には健康不良や精神疾患を招き、休職や退職につながるケースもあります。
厚生労働省の調査では、「怒りや不満、不安などを感じた」(67.6%)、「仕事に対する意欲が減退した」(46.2%)という影響が高い割合ですが、「眠れなくなった」「通院したり服薬をした」といった回答も見られ、心身の健康に深刻な影響が出ているケースもあります。
企業としては、直接的なやり取りや、社内での対応方針の検討、弁護士や警察との相談対応等、顧客対応に相当な時間的コストを強いられることがあります。
SNSへの投稿や、他の顧客の前での暴言・暴力などがある場合には、顧客離れや企業イメージの低下等の損失が想定されます。
企業が取るべき対応及び雇用管理上の防止措置
事業主が雇用管理上の措置(防止措置)のすべての項目を講ずることはもちろん、労使協議や安全衛生委員会等の場を活用するとともに、アンケート調査やヒアリング等を行うことが有効です。
- 事前準備・予防策
- カスタマーハラスメントが実際に起きた際の対応
なお、すべてのハラスメントに共通して、そもそもの原因や背景となる要因を解消することが重要であり、コミュニケーションの活性化や円滑化(定期的な面談やミーティング、労働者のスキルアップや管理監督者のマネジメント研修など)、また、適正な業務目標の設定と業務体制の整備(長時間労働の是正、職場環境や組織風土の改善など)を図るよう併せて求める必要があります。
事前準備・予防策
企業としてカスタマーハラスメントには毅然とした対応方針を明確に打ち出すことが重要です。
これにより、従業員を保護し、対応の長期間を防ぐとともに、従業員の意識が啓発され、対応方針が真に実効性のあるものになります。
企業トップのメッセージは、職員の後ろ盾となり、顧客と接する際の安心感を高めます。
さらに、行き過ぎたハラスメントに対しては毅然とした態度と法的措置を取る旨の警告文を店内に掲示することも、効果があると考えます。
悪質クレームは、いったん発生するとその解決に多大な時間と労力を要するため、未然に予防することが重要です。
効果的なのは定期的かつ継続的な研修の実施で、管理職向け研修と一般職員向け研修を実施するのが有効です。
職場におけるハラスメントの内容および職場におけるハラスメントをなくす旨の方針を明確化し、管理監督者を含む労働者に周知・啓発を行います。
- 組織のトップが、カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」という。)対策への取組の基本方針・基本姿勢を明確に示す。
- カスハラから、組織として従業員を守るという基本方針・基本姿勢、従業員の対応の在り方を、定期的に研修・講座等を開催したり、パンフレット等を作成・配布するなどして従業員に周知、啓発し、教育する。
現場レベルでクレーム対応の判断ができるようにハラスメントの定義を明確にするのと同時に企業内で対応の考え方を統一します。
その上で、ハラスメント事例からクレームを類型ごとにまとめ、該当クレームごとに対応内容の基準を作成し、適正に対応できるように整理を行う必要があります。
相談への対応のための窓口(相談窓口)をあらかじめ定め、労働者に周知します。
- カスハラを受けた従業員が相談できるよう相談対応者をあらかじめ決めておく、または相談窓口を設置し、体制として整備する。
- 管理監督者を含むすべての労働者を対象に、定期的に研修・講座等を開催したり、パンフレット等を作成・配布したりするなどの方法により相談窓口の周知を行う。
- 相談窓口を設置し、ホームページやポスター等により社会的に発信する。
- 相談対応者が相談の内容や状況に応じ適切に対応できるようにする。
- カスハラやクレームに対する的確な初期対応とレベルの向上のために、指導・教育にかかるマニュアルを整備する。
- クレーム事案の発生、被害拡大、再発などの防止に対しては「ミスは起こり得る」との認識に立ち、クレーム情報を一元的に管理するため、報告(連絡)の徹底を指導する。
- クレーム情報を集約するため、従業員に対して報告(連絡)の徹底を指導する。
- カスハラやクレーム対応は、発生した内容と種々の分類により変化することを認識し、業務に必要な知識(刑事法令、民事法令、特別法令)等の研鑽に努めるとともに、顧客に応じた適切な措置がとれるような判断能力などの向上を図る。
- 顧客の思い込みや誤った知識などにも自信を持って応えられるよう、商品知識などの習得に努める。
- クレーム対応マニュアルを作成し、行き過ぎたハラスメントに対して、従業員がどのような対処をすべきかを明文化することにより、泣き寝入りや二次クレームを防ぐことに努める。
日常的に起きているクレームの対応について、社内での情報交換や他企業の対応の研究といった勉強会の実施が対応レベルのスキル向上に大きく貢献します。
特に店舗においては、地域行政・警察・保健所など関係各所とのコミュニケーションを日常的に行い、クレーム発生時には相談ができる体制をつくり迅速な対応ができるようにしておく必要があります。
相談窓口の担当者が、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応できるようにします。
クレーム対応業務には、様々な専門知識と豊富な知見を持ち、さらには対応感度の高い人材を配置することが望まれます。
消費者の厳しい目に継続的に接することによる精神的ストレスは、配置された人材のモチベーションを低下させ、果ては貴重な人材の流出を引き起こすことにもなりかねないため、窓口担当者は複数名配置し、連携を取りながらサポートできる環境にしておくことが重要です。
一人で対応しきれない悪質クレームに遭遇した場合など、精神が疲弊する前に担当者を交代することも時には必要であり、担当者を孤立させないことが企業として最重要です。
- ハラスメントが実際に発生している場合だけでなく、発生のおそれがある場合やハラスメントに該当するか否か微妙な場合も含めて幅広く相談に応じて、迅速かつ適切に対応する。
- 相談者の心身の状況や受け止めなど認識にも配慮しながら、また意向に沿いながら丁寧、かつ慎重に相談に応じる。
- 相談窓口と人事部門が連携できる体制を構築するとともに、具体的な対応方法を記したマニュアルを整備する。
- 相談担当者を対象に、定期的に研修・講座等を開催する。
カスタマーハラスメントが実際に起きた際の対応
事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認します。
- 相談窓口では、相談者の心身の状況や受け止めなど認識にも配慮しながら、また、意向に沿いながら丁寧かつ慎重に事実確認を行う。
- カスハラに該当するか否かを判断するため、顧客、従業員等からの情報をもとに、その行為が事実であるかを確かな証拠・証言に基づいて確認する。
- 確認した事実に基づき、商品に瑕疵がある、またはサービスに加湿がある場合は謝罪し、商品の交換・返品に応じる。瑕疵や過失がない場合は要求等に応じない。
職場におけるハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、速やかに被害を受けた労働者(被害者)に対する配慮のための措置を適正に行います。
- 不利益取扱いを行わない旨をあらかじめ行動指針等に定める。
- 被害を受けた従業員に対する配慮の措置を適正に行う。
- 繰り返される不相当な行為には一人で対応させず、複数名で、あるいは組織的に対応する。
- メンタルヘルス不調への対応等
改めて職場におけるハラスメントに関する方針を周知・啓発する等の再発防止に向けた措置を講じます。
- 行動指針や就業規則、関連規程等を総点検し必要に応じて見直した上で、取組の見直しや改善を行い、継続的に取組を行う。
- 管理監督者を含むすべての労働者を対象に、改めて研修・講座等を開催したり、パンフレット等を配布したりするなどの方法によりそれらの再周知・啓発を行う。
- 相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、従業員に周知する。
- 相談したこと等を理由として不利益な取扱を行ってはならない旨を定め、従業員に周知する。
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カスタマーハラスメント(カスハラ)の実態
厚生労働省が令和3年に公表した令和2年度「職場のハラスメントに関する実態調査」報告書から、カスタマーハラスメントの実態を読み解きます。
カスタマーハラスメントを経験した(何度も繰り返し経験した、時々経験した、一度だけ経験した、の合計)労働者の割合は、15%となっています。
業種別では、生活関連サービス業・娯楽業がトップ、次いでエネルギー業、不動産業等の順になっています。
受けた行為の内容は、⻑時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの)が多く、次いで名誉毀損・侮辱・ひどい暴言、土下座の強要などもあるようです。
カスハラを受けた場所で見ますと、通常就業している場所での顧客等への応対時だけでなく、顧客等との電話やメール等での応対時も相当な割合に上っていて、顔の見えないコミュニケーションでの行為のしやすさも影響していると考えられます。
グラフやその他のデータは、詳細ページをご参照ください。
このページは、以下の資料から引用、または参照して作成しています。
厚生労働省資料「顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議(2021年1月21日)UAゼンセン資料」
https://www.mhlw.go.jp/content/11921000/000732126.pdf
厚生労働省『カスタマーハラスメント対策企業マニュアル』
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
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「何か起きてから」の対応では、費用も労力もかかり、従業員の精神は蝕まれ、解決が困難になります。
何も起きていない今のうちに、予防策を講じることが大切です。