FIFAワールドカップ2022カタール大会〜人権問題に抗議を示すヨーロッパ、広がる波紋

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サッカーワールドカップに湧くカタール。
その陰で、スタジアム建設に携わった外国人労働者が多数死亡するなどの人権侵害が問題視されていることを、開催前に本サイトでお伝えしました。

FIFAワールドカップ2022開催国カタール、外国人労働者の「不自然な自然死」(2022年3月3日の記事)

その波紋は、開会後も今なお広がり続けています。

ヨーロッパの複数のチームが、差別反対を訴えるキャプテンの腕章を着用することをFIFA=国際サッカー連盟に禁止されたことから、批判の声を上げているのです。

カタールでは同性愛が違法とされています。
これを問題視し、ドイツ、オランダ、イングランドなどのチームが「ONE LOVE」と書かれたキャプテンマークを付けて、差別反対を訴える計画でした。

「ONE LOVE」という腕章には、あらゆる差別に反対し、多様性の尊重を訴える意味が込められています。

ヨーロッパの動き

人権意識が非常に高いのが、ヨーロッパの特徴です。
ヨーロッパでは、1950年代、世界に先駆けて人権条約が採択され、1993年には、EU条約(マーストリヒト条約)が発効しました。
外交においても人権尊重が重要視されていて、人権侵害は見過ごすことのできない重大な問題です。

ドイツ

ドイツのサッカー連盟は、FIFAから「ONE LOVE」の腕章を着用した場合は警告を出すとしたFIFAの対応について、「検閲だ」と強く批判するとともに、11月23日、公式のホームページやツイッターを更新し、試合前にドイツの選手たちがグラウンド上で手で口をふさいで映った集合写真とともに、「人権問題は譲れない。腕章を着けないということは声を上げないということと同じだ。私たちは自分たちの立場を貫く」とするコメントを掲載し、改めて抗議の意思を示しました。

  • ドイツサッカー連盟は、人権は譲れないとして、FIFAの対応を問題視。
  • ドイツサッカー連盟のスポンサー1社が撤退を表明。
  • 大会中に選手や監督がインタビューを受ける際に背後に置かれるボードは、この企業のロゴマークが「ONE LOVE」のマークに差し替えられた。
  • 選手たちが、試合前の写真撮影で、口を手で塞ぐポーズをとり、声を上げることを認めないFIFAへの抗議の意思表示をした。
  • ドイツのフェーザー内相は、あえて「ONE LOVE」の腕章を付けて、FIFA会長の横で試合を観戦した。
  • 独公共放送ARDの世論調査では、56%の人がワールドカップを「まったく見ない」と回答し、うち41%がその理由として「人権問題」を挙げている(1位は「関心がない」50%)。

ドイツは、ナチスドイツによるユダヤ人弾圧の反省から、人権問題に非常に敏感で、幼い頃から人権教育がなされています。

ドイツ基本法第1条 [人間の尊厳、基本権による国家権力の拘束]第1項
人間の尊厳は不可侵である。
これを尊重し、および保護することは、すべての国家権力の義務である。

デンマーク

  • 赤と白の二着に加え、建設現場で亡くなった労働者を追悼する意味を込め、黒のユニフォームを新たに用意した。
  • 選手たちは抗議の意味を込めて、カタールに家族を帯同しなかった。

デンマーク代表のウエアを製作する同国のスポーツメーカー「ヒュンメル」は「何千人もの人々の命を奪った大会の最中に、私たちの存在を目立たせたくはない」とネット交流サービス(SNS)に投稿。普段着用する赤と白に加え、今大会は「喪」を意味する、黒色ユニホームも製作した。(2022年11月22日 毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20221122/k00/00m/050/003000c

オランダ

  • 代表チームの選手たちが、現地の外国人労働者と交流した。
  • 大会後にはユニフォームをオークションにかけ、収益を労働者支援に充てることにしている。

人権問題を抱えるカタール、オランダ代表が外国人労働者と交流…ファンダイク「全員が望んでいた」(2022年11月18日 読売新聞オンライン)
https://www.yomiuri.co.jp/sports/soccer/worldcup/20221118-OYT1T50245/

サッカー=オランダ代表監督、W杯カタール開催批判 人権巡り(2022年3月22日ロイター)
https://jp.reuters.com/article/soccer-nld-wcup-idJPKCN2LJ034

フランス

  • カタールは11月でも日中の気温が30度超。暑さ対策として空調を使用して選手や観客にとって快適な環境を提供するとしていて、大量の二酸化炭素が排出されるなど環境への悪影響があるという声が上がっている。
  • 抗議の意思を示そうとパリやリヨンなど複数の都市でパブリック・ビューイングが中止された。

ワールドカップ 人権や環境問題への懸念も(2022年11月21日 NHKニュース)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221121/k10013898781000.html

イギリス

  • イギリスの人権活動家などが、首都ロンドンにあるカタール大使館前で、施設の建設に携わった外国人労働者や現地の性的マイノリティーの人たちの人権状況に抗議して改善を求めるデモを行い、およそ50人が参加した。

ワールドカップ “人権侵害に焦点を”イギリスで抗議デモ(2022年11月20日 NHKニュース)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221120/k10013897331000.html

ヨーロッパ議会

  • カタールの人権状況についての決議を採択した。今回の決議に拘束力はないが、ヨーロッパ議会の総意とみなされる。
    • スタジアムの建設など大会の開催準備の過程で、多くの外国人労働者が死亡したとされる状況について非難。詳しい調査と死亡した労働者遺族への補償、性的指向差別の禁止を求めている。
    • FIFA=国際サッカー連盟に対しては、カタールを開催国に選んだ過程が透明性に欠け、リスク評価が十分になされなかったなどと批判したうえで、労働者の遺族への補償の実現に向けて、役割を果たすよう求めている。
    • EU加盟国に対しては、FIFAの改革にむけて圧力を行使するよう求め、今後の開催国の選定では透明性を確保し、人権保護の基準が厳密に守られるべきだとしている。
    • 性的少数者(LGBTQ+)コミュニティーに対する人権侵害も遺憾とし、同性間の性的関係を非犯罪化するよう求めている。

カタールの人権状況 非難する決議を採択 ヨーロッパ議会(2022年11月25日 NHKニュース)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221124/k10013902911000.html

欧州議会、FIFAに人権侵害補償求める決議 カタールW杯巡り(2022年11月25日 ロイター)
https://jp.reuters.com/article/soccer-worldcup-qatar-eu-idJPKBN2SF05S

その他

  • バルセロナなどでも、パブリックビューイングが中止された。
  • ドイツやベルギーでは、一部のスポーツバーが試合の中継を取りやめた。

カタール政府の対応

  • 最低賃金制度の導入や転職の自由を認めない制度を改めるなど、労働条件を改善した。
  • 海外のサッカーファンには、国籍や人種、宗教、性的指向に関係なくすべての人を歓迎するとした。
  • 一方で、搾取や強制労働の事実は否定。
  • また、ヨーロッパ基準の押しつけであると非難している。

現状

事態は沈静化していません。

  • 賃金の未払いの苦情はその後も続いている。
  • 大会関係者による同性愛者への批判的発言が物議を醸している。

誘致の過程では大規模な不正があったと伝えられていてFIFAの幹部も多数逮捕されていることもあり、灼熱の地での開催、人権侵害等、これほど多くの問題が指摘されていたにもかかわらずカタール開催が決定された過程は不透明であると、疑問視されています。

北京オリンピックでもそうだったように、スポーツと人権は常にセットでクローズアップされます。
特に、大規模な大会では、人権への最大限の配慮が必要ですし、スポーツを観る側も、関心を持たなければなりません。

沈黙は加担と同じです。

札幌オリンピックの招致を目指すなら、私たち日本人も、無関心ではいられません。

ワールドカップ “差別反対”でドイツ連盟が改めて抗議の意思
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221124/k10013901531000.html

(出典)NHKニュース「サッカーワールドカップ ドイツ差別抗議マーク断念の波紋」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221128/k10013905601000.html

(出典)サッカーW杯 熱戦の陰で高まる人権意識(2022年11月30日 NHK解説委員室)
https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/900/476877.html