海遊館事件

性的発言等によるセクシュアルハラスメント

事件名

損害賠償請求事件

いわゆる事件名

海遊館事件

事件番号

平成26年(受)第1310号

争点

セクハラ行為を理由としてなされた懲戒処分とそれを理由とする降格の有効性が問われた事案(労働者=行為者敗訴)

事案の概要

職場における性的な内容の発言等によるセクシュアルハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事案。

  • 勤務先:Y社(海遊館の経営及び遊戯施設の経営等を目的とする株式会社)
  • 行為者:X1・X2(いずれもY社の管理職)
  • 受け手:A・B=いずれも女性従業員

Y社の管理職である男性従業員X1・X2の2名が同一部署内で勤務していた女性従業員A・Bらに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアルハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は、次の(1)~(4)など判示の事情の下では、懲戒権を濫用したものとはいえず、有効であると判断された判例。

(1)上記男性従業員X1・X2の行為は、以下のようなものである。

  1. X1は、女性従業員Aが執務室において1人で勤務している際、同人に対し、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲等についての極めて露骨で卑わいな内容の発言を繰り返すなどした。
  2. X2は、当該部署に異動した当初に上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていながら、女性従業員Aの年齢や女性従業員A及びBが未婚であることなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し、女性従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなど、同一部署内で勤務していた派遣労働者等の立場にある女性従業員Aらに対し職場において1年余にわたり多数回のセクシュアルハラスメント等を繰り返した。

(2)上記Y社は、職場におけるセクシュアルハラスメントの防止を重要課題と位置付け、セクハラ禁止文書を作成してこれを従業員らに周知させるとともに、セクハラに関する研修への毎年の参加を全従業員に義務付けるなど、種々の取組を行っており、X1・X2の男性従業員らは、上記の研修を受けていただけでなく、管理職として上記会社の方針や取組を十分に理解して部下職員を指導すべき立場にあった。

(3)上記(1)①及び②の各行為によるセクシュアルハラスメント等を受けた女性従業員Aは、上記各行為が一因となって、上記会社での勤務を辞めることを余儀なくされた。

(4)上記出勤停止の期間は、上記(1)①の1名につき30日、同②の1名につき10日であった。

(5)X1、X2は、セクシュアルハラスメント行為等を理由としてY社から受けた懲戒処分(出勤停止)の無効、懲戒処分を受けたことを理由とする降格の無効を主張し、それぞれ、〈1〉懲戒処分の無効確認、〈2〉降格前の地位の確認、〈3〉懲戒処分による出勤日数の減少を原因として減額された給与及び賞与の減額分、〈4〉降格を原因として減額された給与の減額分の各支払を求め、さらに、無効な懲戒処分及び降格をしたことが不法行為に当たるとして、〈5〉慰謝料の支払を求め提訴した。

(6)大阪地裁は、Xらの請求をいずれも棄却したためXらが控訴したところ、大阪高裁は原判決を変更してXらの請求を一部認めたためYが上告したところ、最高裁は、Yの原審での敗訴部分を破棄し、Xらの請求を棄却した。
なお、行為がなされていた1年ほどの間に、BらがXらに明確な抗議をしたことはない。

判決のポイント

  • 同一部署内において勤務していた従業員Aらに対し、Xらが職場において1年余にわたり繰り返した上記の発言等の内容は、いずれも女性従業員に対して強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における女性従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。
  • しかも、Y社はセクハラ防止のために種々の取組を行っていたのであり、Xらは、研修を受けていただけでなく、Yの管理職として上記のようなYの方針や取組を十分に理解し、セクハラの防止のために部下職員を指導すべき立場にあったにもかかわらず、派遣労働者等の立場にある女性従業員らに対し、職場内において1年余にわたり上記のような多数回のセクハラ行為等を繰り返したものであって、その職責や立場に照らしても著しく不適切なものといわなければならない。
  • そして、従業員Aは、Xらのこのような本件各行為が一因となって、本件水族館での勤務を辞めることを余儀なくされているのであり、管理職であるXらが女性従業員らに対して反復継続的に行った上記のような極めて不適切なセクハラ行為等がY社の企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過し難いものというべきである。
  • 以上によれば、Xらが過去に懲戒処分を受けたことがなく、Xらが受けた各出勤停止処分がその結果として相応の給与上の不利益を伴うものであったことなどを考慮したとしても、X1を出勤停止30日、X2を出勤停止10日とした各出勤停止処分が本件各行為を懲戒事由とする懲戒処分として重きに失し、社会通念上相当性を欠くということはできない。

ポイント

  • Xらがしたような性的な内容の発言等によるセクシュアルハラスメントは、強い不快感や嫌悪感ないし屈辱感等を与えるもので、職場における従業員に対する言動として極めて不適切なものであって、その執務環境を著しく害するものであったというべきであり、当該従業員らの就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招来するものといえる。身体に接触する行為ではなくても、被害者への影響は極めて甚大であり、軽視してはならない。
  • 管理職という立場で多数回のセクシュアルハラスメントを繰り返すことは、その職責や立場に照らしても著しく不適切なものである。
  • そして、受け手がこのような各行為が一因となって退職を余儀なくされることから、極めて不適切なセクハラ行為等は、企業の秩序や職場規律に看過し難い影響を及ぼすものといえる。
  • (上記行為がなされていた1年ほどの間に、BらがXらに明確な抗議をしたことはなく、大阪高裁は、この事実等から、Xらが被害者の意に反することを認識しながら、または、嫌がらせを企図して敢えて各行為をしたものとまでは認められず、むしろ許容されていると誤信して同行為に及んだとし、Xらに有利な事情として斟酌しているが)職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心で著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、人間関係の悪化等を懸念して加害者に対する抵抗や被害申告を差し控えたり躊躇したりすることが少なくないことから、被害者が抗議等をしなかったことを加害者に有利に斟酌することは相当でない。被害者の抗議がないことに係る評価については、厚生労働省発出の労災認定に係る基準(「心理的負荷による精神障害の認定基準について」)においても、被害者の抵抗等がないことがセクハラの存在を単純に否定する理由にならないとして挙げられているところでもあり、労働者へのセクハラ防止教育において、被害者からの拒否がなくともセクハラに該当し、また処分の対象になることを説明しておくことが肝要である。
  • (本件は被害者からの申告により発覚したが、同申告迄の間、Y社が具体的にXらに注意を与えたことはなく、また、Y社ではセクハラによる懲戒処分の前例はなかったことから、大阪高裁は、XらはY社のセクハラに対する懲戒処分につき具体的な方針を認識する機会がなかった等とし、この事情をXらに有利な事情として評価したが)、Xらは管理職であり、セクハラが懲戒処分の対象となる旨認識すべきであったこと、また多くが第三者のいないところで行われていたため、申告以前にY社が具体的に警告・注意などを行う機会があったとは言えないことなどから、懲戒を受けるまでの経緯についてXらの有利に斟酌し得ない。これは、Y社がセクハラ行為を知りながら、何ら注意・指導をせずに同行為が繰り返されるのを放置していて、あるとき突如として懲戒処分を行った、という場合には、注意・指導がなかった点が、加害者に有利な事情として機能することもあると解される。したがって、通報などでセクハラ行為を把握した場合には、注意・指導を含め迅速かつ適切な対応をしておくことが求められる。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
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