アカデミックハラスメントとは
アカデミックハラスメント(アカハラ)とは、「大学などの学術機関において、教職員が教育・研究上の権力を濫用し、ほかの構成員に対して不適切で不当な言動を行うことにより、その者に対して修学・教育・研究ないし職務遂行上の不利益を与え、あるいはその修学・教育・研究ないし職務遂行に差し支えるような精神的・身体的損害を与えることを内容とする人格権侵害のこと」です。
特定非営利活動法人(NPO)アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)は、“研究教育に関わる優位な力関係のもとで行われる理不尽な行為”と定義しています。
アカデミックハラスメントの行為類型
学習・研究活動への妨害
研究教育機関における正当な活動を直接的・間接的に妨害すること。
- 文献・図書や機器類を使わせない。
- 実験機器や試薬などを勝手に廃棄する。
- 研究に必要な物品の購入や出張を、必要な書類に押印しないという手段で妨害する。
- 机を与えない。また机を廊下に出したり、条件の悪い部屋や他の研究室員とは別の部屋に隔離したりする。
- 正当な理由がないのに研究室への立ち入りを禁止する。
- 研究費の応募申請を妨害する。
- 学会等への参加を正当な理由なく許可しない。
卒業、単位、進級の妨害
学生の進級・卒業・修了を正当な理由無く認めないこと。
また正当な理由無く単位を与えないこと。
- 卒業研究を開始して間もないのに、早々に留年を言い渡す。
- 理由を示さずに単位を与えない。
- 卒業・修了の判定基準を恣意的に変更して留年させる。
- 「不真面目だ」、「就職活動をした奴は留年だ」といって留年を宣告する。
- 卒業研究は完了しているのに “お礼奉公”としての実験を強要し、それを行わなければ卒業させない。
選択権の侵害
就職・進学の妨害、望まない異動の強要など。
- (指導教員を変更したいと申し出た学生に)「俺の指導が気に入らないなら退学しろ」
- 指導教員を途中で変更したら自動的に留年。
- 本人の希望に反する学習・研究計画や研究テーマを押しつける。
- 就職や他大学進学に必要な推薦書を書かない。
- 就職活動を禁止する。
- 会社に圧力をかけて内定を取り消させる。
- 他の研究教育組織への異動を強要する。
- 「結婚したら研究者としてやってはいけない」などと言って、結婚と学問の二者択一を迫る。
指導義務の放棄、指導上の差別
教員の職務上の義務である研究指導や教育を怠ること。
また指導下にある学生・部下を差別的に扱うこと。
- 「放任主義だ」と言ってセミナーを開かず、研究指導やアドバイスもしない。
- 研究成果が出ない責任を一方的に学生に押しつける。
- 論文原稿を渡されてから何週間経っても添削指導をしない。
- 測定を言いつけるが、その試料がどんな物で何が目的なのか尋ねられても説明しない。
- 嫌いなタイプの学生に対して指導を拒否したり侮蔑的言辞を言ったりする。
不当な経済的負担の強制
本来研究費から支出すべきものを、学生・部下に負担させる。
- 実験に失敗した場合、それまでにかかった費用を弁償させる。
- 研究費に余裕があるにもかかわらず試薬を買い与えない。
- 学生の卒業論文に必要な実験の試薬等を自費で購入させる。
研究成果の収奪
研究論文の著者を決める国際的なルールを破ること、アイデアの盗用など。
- 加筆訂正したというだけなのに、指導教員が第一著者となる。
- 実験を行う・アイデアを出すなど研究を主体的に行って、その研究に最も大きな貢献をした者を第一著者にしない。
- 第一著者となるべき研究者に、「第一著者を要求しません」という念書を書かせる。
- 著者の順番を教授が勝手に決める。
- その研究に全くあるいは少ししか関わっていない者を共著者に入れることを強要する。
- 「俺の名前を共著者に入れろ。場所代だ。」
- 学生が出したアイデアを使って、こっそり論文を書く。
暴言、過度の叱責
本人がその場に居るか否かにかかわらず、学生や部下を傷つけるネガティブな言動を行うこと。
発奮させる手段としても不適切。
- 「お前は馬鹿だ」
- 「(論文を指して)幼稚園児の作文だ」
- 「(研究を指して)子供の遊びだ」
- 「こんなものを見るのは時間の無駄だ」
- 「セミナーに出る資格がない。出て行け」「死んでしまえ」
- 「お前は実験はやらなくていい。掃除だけやっておけばいい」と言って、大学院生に研究テーマを与えない。
- 「君は(出来が悪いから)皆の笑い者だ」
- 学生や部下が持ってきた論文原稿をゴミ箱につっこむ、破り捨てる、受け取らない、きちんと読まない。
- 学生や部下が出したアイデアに全く検討を加えず、それを頭から否定する。
- ささいなミスを大声で叱責する。
不適切な環境下での指導の強制
- 午後11時からなど深夜に指導を行う。
- 指導するからと言ってホテルの一室に呼びつける。
- 他人の目が行き届かない状況で個人指導を行う。
- 演習・セミナーの時間が他研究室と比べて異様に長く、くどくどと叱責を行う。
権力の濫用
(1)不当な規則の強制
- 他の人や先輩に実験手法を教えてもらってはいけない。
- 研究に関して人と相談することを一切禁止する。
- 先輩のデータ作りは手伝わなくてはいけない。しかし、自分の実験はどんなに時間がかかっても一人でやるべきである。
- 日曜日に研究室に来ないと留年。
- 夏休みは指定された3日だけ。それ以外に休んだら留年。
- スキー禁止。テニス禁止。アルバイト禁止。
- 「○○とは一切口をきくな」
(2)不正・不法行為の強要
- 空バイト・空謝金(アルバイトをしたという架空の書類を学生に作成させ、不正に研究費を引き出すこと)などの金銭的不正行為の強要。
- 研究データの捏造・改ざんの強要。
(3)権力の濫用(その他)
- プライベートな行動に付き合うことの強制。
- 送り迎えの強要。
- 教授が行う学会発表のデータ作りを、共著者でない学生に徹夜で仕上げることを強要。
- 会議や行事など、必要な情報を故意に教えない。
- 物品等の管理を過剰なまでに厳格に行う。試験管1本まで厳密に管理して、不足する度にいちいち取りに来させる。
プライバシー侵害
プライベートを必要以上に知ろうとしたり、プライベートなことに介入しようとしたりすること。
- 家族関係・友人・恋人のことなど、プライベートについて根掘り葉掘り聞く。
- 交際相手のことをしつこく聞き、「そういう人はやめたほうがいい」などと勝手なアドバイスをする。
他大学の学生、留学生、聴講生、ゲストなどへの排斥行為
- (担当者の了解をとり、ゼミに参加した他大学の学生に向かって)「外部の人間は出て行け」「ここはあなたのようなレベルの低い人がくるところではない」「自分のゼミに帰れ」
- 属性や身分(留学生、社会人学生、聴講生、科目等履修生、研究生、研修生など)によって差別的な待遇をしたり、それを正当化しようとしたりする。(例:「聴講生は発言を控えてほしい。」)
(出典)特定非営利活動法人(NPO)アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH)ホームページより
http://www.naah.jp/harassment.html
アカデミックハラスメント(アカハラ)の特徴
明白な主従関係
学生にとて大学は自分の専門分野や将来に関わる道程であり、その支配者が教職員であるという構図になっています(実際にはそうでなくても、そのように感じられます)。
ゆえに、教職員の権力は絶対的で、強制力や拘束力が強大で、学生は拒絶・抵抗の自由がないと、少なくとも学生にとってはそのように感じられます。
外部からは見えづらい
指導の現場は指導者の独壇場になりやすく、外部からは見えづらいことも、問題の把握や解決を困難にします。
正当性の基準がわかりにくい
パワハラと指導の境界線も曖昧ですが、アカハラはさらに不明瞭です。
学校では教職員個人の裁量に委ねられているところが大きく、個人的感情や利権などが絡みやすくなります。
必要なアカハラ対策
以上の特徴から、以下の対策が求められます。
指導現場の透明化を図ること
学生アンケートや、学生向け相談窓口等により、閉鎖的になりがちな指導現場の透明性を確保することが大切です。
アカハラ基準を定めること
完全な線引は不可能ですが、一定の判断基準を定めることはできます。
定めた基準は、アカハラ対応マニュアル等の形で文書化し、研修等を通じすべての教職員に周知・浸透させます。
アカハラを防ぐために教職員が心がけるべきこと
大学教職員の使命は、専門分野を通して学問の発展に寄与すること、学生が学習・研究する文化的環境を整え支援、応援することです。
教職員自身の個人的感情や権益保護、保身を第一に考え、学生を使いっ走りのように扱うことは、教職員の務めではありません。
質問を歓迎する雰囲気をつくり、質問には丁寧に答えること、教えるべきことを丁寧に教えること、学生との対話を大切にし、コミュニケーションをしっかりとることが重要です。
また、教職員間の連携不足、コミュニケーション不足等が、長時間労働や教職員間のハラスメントを生み、その疲労やストレスが学生への暴言等となって問題化することもあります。
教職員間の業務分担を見直し、業務を効率化することで長時間労働を防ぐこと、教職員間の適切なコミュニケーションを活発化することなども、重要なアカハラ防止策となります。
ケンズプロのサポート
当社のサポート
当社では、アカデミックハラスメントについて、ご相談、研修、外部相談窓口等を承っています。
日本全国、オンラインにて対応いたします。
【教職員対象】大学ハラスメント(アカデミックハラスメント等)研修
アカデミックハラスメント(アカハラ)のほか、教職員間で発生するパワハラやセクハラ等の予防・再発予防研修を実施します。
現代の若年層(学生の平均的な年代)の価値観や、それに合わせた指導法などをご紹介します。
文部科学省によるSD(Staff Development)義務化への対応の一環として、ご活用ください。
【学生対象】就職先でのパワハラ・セクハラ等基礎知識習得研修
大学を卒業し就職したら、勤め先では様々な試練が待っています。
試練に遭遇する度に転職する若年層が増えていることは、社会的課題となっています。
社会人になったら、上司にはどのような人たちがいて、どのようにコミュニケーションをとるべきか、ハラスメントを受けたと感じたらどのように対応するべきかを、大学生のうちから学んでおくこと、つまり想定しておくことは、試練を乗り越え危機に打ち克つ力となり、あるいは暴力や性被害から自らを守る知恵となります。
【教職員・学生対象】学外相談・通報窓口
教職員間のハラスメントや、学生が受けるアカデミックハラスメント等に関するご相談やご通報を、当社がお受けし、大学様に対策のご提案を添えてご報告するシステムです。
学内の窓口には相談しづらい、不安があるなどから、誰にも相談できず一人で抱え込み、突然訴訟沙汰やマスコミ沙汰になることを防ぐことを目的とします。
【加害教職員対象】ハラスメント行為者個別指導研修プログラム
万が一ハラスメントが発生し、教職員が加害者となってしまった場合に、懲戒処分の一環として、現場復帰の条件として、加害者(行為者)向け個別指導研修プログラムをご利用いただくことを推奨しています。