広島セクハラ(生命保険会社)事件

宴席での身体的接触によるセクシュアルハラスメント

事件名

損害賠償請求事件

いわゆる事件名

広島セクハラ(生命保険会社)事件

事件番号

平成16(ワ)1817

争点

忘年会の席上でセクハラを受けた保険会社女性社員らが行為者と会社に対し損害賠償を求めた事案(原告一部勝訴)

事案の概要

生命保険会社の忘年会の席上、男性社員ら3名が複数の女性社員ら7名に対して行ったセクハラ行為につき、女性社員らが、会社及び男性社員らに対する損害賠償を求めた事案。

  • 勤務先:生命保険会社
  • 行為者:Y所長(営業所長)・Y組織長(組織長)ら3名
  • 受け手:X=7名(すべて保険外交員の女性)

※当事者が多く、誰の誰に対する行為であるかは、ここでは省く。

行為

  • 生命保険会社の忘年会で、以下のような行為があった。
    • YがXの腰に両脚を巻きつけ(以下同種の行為を「かにばさみ」という。)、抱きつき、他の加害者も正面からかにばさみをした。
    • YがXの脇腹をつかんで、「これまわしじゃ。みんな見て見て。」と騒いだ上、Xを押し倒し、その顔を舐めた。
    • Yが水平に伸ばした自身の左腕をXの顎の下をめがけて打ち付け、その場に転倒させた。
    • Yの一人がXを羽交い締めにするように抱き込み、また、かにばさみをし、別のY行為者が被害者の股間に自らの陰部付近を押し付けた。
    • Y行為者がXの首を両脚で挟み、後ろに倒した。
    • YがXをかにばさみにし、逃げようとするXの足首をつかんでひきよせ、さらにかにばさみをして引き倒した。
    • YがXの背後から肩に手を回して抱きつき、その状態の写真を撮らせた。

申立・提訴

  • 本件忘年会から約3か月後に、Xの一人が市人権センターに申し立てるなどした。
  • 会社が4名体制で営業所の職員全員に事情聴取したところ、不快との意見が多かった一方で、Y所長赴任前から、宴会ではXらが悪ふざけ的行為をしていたし、忘年会でもしていた、Y所長らの行為を受け入れて楽しんでいたという指摘もあった。女性2名がY所長を床に押し倒し、上に乗りかかることもあった。
  • Y所長、Y組織長は、営業所の朝礼で謝罪した。
  • 調査の過程で市人権センター職員立会いのもと、調査担当者及び支社長が被害女性全員と面談し、Y所長の謝罪等を行うも、支社長が、女性等は楽しそうにしていたと認識していたと発言した。
  • 取締役常務執行役員やコンプライアンス統括部長らがXらと面談し、会社として謝罪した。
  • 会社はY所長、Y組織長を懲戒処分とし、両名は退社した。
  • 支社長が朝礼で処分が下されたことを報告し、会社として深謝したが、処分の具体的内容や処分の理由は明らかにしなかったことから、これに納得しないXらは、労働局へのセクハラ申立、法務局への被害申立などをした。
  • Xらは行為者Yらと会社を被告として、損害賠償請求訴訟を提起した。

判決

  • 広島地裁は、当該行為は女性社員らの身体的自由、性的自由及び人格権を侵害し不法行為に当たるとする一方で、女性社員らが男性社員らの行為を咎めることなく、嬌声をあげて騒ぎ立てるなどした態度がセクハラ行為を煽る結果になったと推認されるとして、過失相殺の法理を類推適用し慰謝料額の2割を減じた額と弁護士費用の限度で支払を命じた。
  • また、会社の使用者責任については、忘年会は職場の営業活力を醸成し職場における人間関係を円滑にするものとして、業務の一部あるいは業務に密接に関連する行為として行われたものであるとして、会社への使用者責任に基づく損害賠償も認容した。
  • しかし、会社の事後の対応が債務不履行に当たるとの主張については、会社は、事情聴取の後、行為者らに女性社員らへの謝罪をさせるとともに懲戒処分に付し、会社としても女性社員らに謝罪していることからすれば、雇用主としての環境保護義務違反があったとまではいえないとして、これを否定した。

ポイント

セクハラ行為を煽る言動等が被害者側からあったとしても、セクハラ行為として不法行為責任が生じることがある。
上司は、煽りに乗ってはならない。

  • 本件行為が行われた忘年会は、騒ぎすぎで品がなく不快であるなどと評した労働者も存在するように、本判決における事実認定からは、相当程度騒がしい、また、悪ふざけ的な行為がなされた会であった。
  • そのような会において、行為者たる上司がセクハラ行為等をした一方で、被害者たる部下側も、加害者を押し倒したり、嬌声をあげ騒ぎ立てるなどして行為者らのセクハラ行為を煽る結果となったとして、地裁は損害賠償額を減額した。
  • しかしながら、そのような過度な悪ふざけがある宴会であったことや、被害者側にも落ち度と評されるような行為があったことを理由として、直ちに行為者による行為の違法性が否定されるものではない。
  • Xらの行為は、宴会の雰囲気を壊してはならない、宴会を盛り上げなければならないという使命感や、上司への配慮や遠慮があったという側面も否定できない。もしかしたら、伝統的に、宴会を盛り上げるために「体を張る」ことや大はしゃぎすることが部下の暗黙の任務になってはいなかったか。あるいは、そのような盛り上げ役が評価されたり、盛り上げなければ評価を下げられたり嫌がらせを受けたりすることはなかったか。
  • 被害者側の反応は多様である。特に、上司に対しては配慮や遠慮がある。注意する、拒絶するのは困難であることはもとより、積極的に加担したり、賛同したりすることにより、上司への忠誠心を示すことはよくある。ゆえに、拒絶の意を示さないことや、積極的な参加があったとしても、セクハラ行為を歓迎していると決めつけることはできず、「そのような状況下でなされたのであるから、セクハラとは評価できない。」などと判断するべきではない。上司という立場では、煽りに乗ってはならない。
  • 「性的な悪ふざけ」が、日常的に、あるいは宴会では毎度行われている場合は、セクハラ文化=性にけじめのない文化が定着し、行為がエスカレートしたり、風紀が乱れ治安が悪化し、性的事件以外にも様々な不正や事件、事故が起こるなどしやすくなる。下品で不快感のある文化を戒め、職場にふさわしい品格と安心、安全、プロ意識のある文化を醸成しなければならない。
  • 宴会で不適切な言動が発生した場合は、参加者・同席者が止めるべきであることを、特に管理職には教育することが大切である。
  • 役員や管理職は、宴会を含む職場の雰囲気、文化に目を光らせ、必要に応じて指導・注意し、品格ある文化の維持に努めるべきである。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
ケンズプロは、パワハラ・セクハラ・ペイハラ・カスハラ等ハラスメント対策や女性活躍推進、採用ブランディングなどを支援する人事コンサルティング会社です。