A保険会社上司(損害賠償)事件

精神的な攻撃

事件名

損害賠償請求控訴事件

いわゆる事件名

A保険会社上司(損害賠償)事件

事件番号

平成16(ネ)6245

争点

上司のメールが名誉毀損又はパワーハラスメントに当たり、不法行為を構成するとして慰謝料を請求した事案(労働者勝訴)

事案の概要

A保険会社Bサービスセンター所長Yが、課長代理Xの案件処理状況が悪いことから、X及び職場の同僚十数名に対しXの名誉を毀損又はパワーハラスメントに当たるメールを送り、これが不法行為を構成するとしてXが慰謝料を請求した事案。

  • 勤務先:A保険会社
  • 行為者:Y所長=Xの上司(A社Bサービスセンター所長)
  • 受け手:X=A保険会社の社員、Yの部下(エリア総合職で課長代理)
  • 第三者:Zリーダー=Xの上司(ユニットリーダー)

背景・行為

  • Y所長は、Xには業績に対する熱意が感じられず、エリア総合職の課長代理という立場であるにもかかわらず、実績を挙げないことが、他の従業員の不満の原因になっていると考えていた。
  • Xの上司であるユニットリーダーZは、Bサービスセンター(SC)のXを含むユニットの従業員と上司であるY所長にあてて、「X課長代理もっと出力を」と題し、「・・・X課長代理全くの出力不足です。・・・支払合計件数1件で、叱咤激励しましたが、・・・代理として全く出力不足といわざるを得ません。ペンディングも増える一方です。本日中に、全件洗い替えをし・・・」という趣旨の記載をしたメールを送信した。
  • Y所長は、Xへの指導を行うとともに、上記メールの内容を支持することを表明する必要があると判断し、上記メールに返信して、メールをXおよびZリーダーを含む同じ ユニットの従業員十数名に送信した。次の記載は、赤文字で、ポイントの大きな文字であった。
    • 意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい。
    • 未だに始末書と「〜〜病院」出向の報告(私病?調査?)がありませんが、業務命令を無視したり、業務時間中に勝手に業務から離れるとどういうことになるか承知していますね。
    • 本日、半休を取ることを何故ユニット全員に事前に伝えないのですか。必ず伝えるように言ったはずです。我々の仕事は、チームで回っているんですよ。

提訴

Xは、このメール送信が不法行為に当たるとして、損害賠償請求訴訟(100万円)を提起した。

判決

  • 第一審東京地裁は、本件メールは叱咤督促が目的であって名誉毀損ないしパワーハラスメントには当らず、不法行為にも該当しないとしたためXが控訴。
  • 第二審東京高裁は、メール中に退職勧告とも取れる表現や、人の気持ちを逆撫でする侮辱的な表現があり、これをXだけでなく職場の同僚十数名にも送信したことは、Xの名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかで、叱咤督促しようとした目的が正当であったとしても、表現が許容限度を超え著しく相当性を欠き不法行為を構成するとし、ただし、目的は是認できることからパワーハラスメントの意図は認められないとした。そのうえで、損害賠償額について、送信の目的、表現方法、送信範囲を総合し、名誉毀損による慰謝料として5万円の支払いを命じた。

判決の理由

  • 本件メールの内容は、職場の上司であるY所長がエリア総合職で課長代理の地位にあるXに対し、その地位に見合った処理件数に到達するよう叱咤督促する趣旨であることがうかがえないわけではなく、その目的は是認することができる。
  • しかしながら、本件メール中には、「やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います。当SCにとっても、会社にとっても損失そのものです。」という、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られるおそれのある表現が盛り込まれており、これがY所長本人のみならず同じ職場の従業員十数名にも送信されている。この表現は、「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ。……これ以上、当SCに迷惑をかけないで下さい。」という、それ自体は正鵠を得ている面がないではないにしても、人の気持ちを逆撫でする侮辱的言辞と受け取られても仕方のない記載などの他の部分ともあいまって、Xの名誉感情をいたずらに毀損するものであることは明らかであり、上記送信目的が正当であったとしても、その表現において許容限度を超え、著しく相当性を欠くものであって、Y所長に対する不法行為を構成するというべきである。
  • Y所長は、「本件メールの内容は、課長代理職にふさわしい自覚、責任感をもたせるべく指導・叱咤激励したものであり、Xを無能で会社に必要のない人間であるかのように表現したものではない」旨主張するけれども、本件メールの前記文章部分は、前後の文脈等と合わせ閲読しても、退職勧告とも、会社にとって不必要な人間であるとも受け取られかねない表現形式であることは明らかであり、赤文字でポイントも大きく記載するということをも合わせかんがみると、指導・叱咤激励の表現として許容される限度を逸脱したものと評せざるを得ない。Y所長の上記主張は採用することはできない。
  • Xは、「本件メールは、上司が部下を指導したり叱咤激励するというものではなく、部下の人格を傷つけるもので、いわゆるパワーハラスメントとして違法である」旨主張する。しかしながら、前説示のとおり、本件メールが、その表現方法において、不適切であり、Xの名誉を毀損するものであったとしても、その目的は、Xの地位に見合った処理件数に到達するようXを叱咤督促する趣旨であることがうかがえ、その目的は是認することができるのであって、Y所長にパワーハラスメントの意図があったとまでは認められない。

ポイント

  • やる気が見られなかったり営業成績が振るわなかったりする部下であり、エリア総合職で課長代理という地位にある者に対し、その地位に見合った処理件数に到達するよう叱咤督促するという目的があったとしても、退職勧奨や、会社にとって不必要な人間であると受け取られかねない表現で指導を行うことは許されるものではない。
  • また、その目的があったとしても、個人を侮辱する内容のメールを職場の同僚十数名に送信し、「晒し者」にする手段は、受け手の人格を傷つけ名誉を既存するものであり、著しく相当性を欠いている。
  • 指導の目的を達成するための手段として適切なものを選択し実行するべきである。部下を侮辱し気持ちを逆撫ですることは、目的達成のために最適な手段とはいえない。
  • さらに、メールを受信した同僚たちも、Yに対し恐怖心や不信感を抱いたり、将来的に自分も同様の扱いを受けるのではないかと不安に感じたり、Xの心情や立場を心配したりと、少なくとも動揺はあったであろうことが想像できる。職場内に動揺が広がれば、全体の生産性や業務の質が低下することも考えられる。パワハラの影響は広く大きく深いものである。
  • やる気が見られなかったり営業成績が振るわなかったりする部下に対しては、何か困っていることや不具合があるのかを問い、本人に合う方法を探りながら、上司のサポートのもと、克服し改善を図ることが望ましい。

投稿者

株式会社 ケンズプロ
株式会社 ケンズプロ
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