大人の発達障害、企業に求められる「合理的配慮」とは?

2016年施行の改正障害者雇用促進法は、過重な負担にならない範囲で障害者に対して合理的配慮を提供することを事業主に義務付けています。
身体障害、知的障害、そして発達障害を含む精神障害などを有する方が、合理的配慮の対象となっています。

当社が多くのパワーハラスメント事案を取り扱う中で、「大人の発達障害」が、事案の背景にあると考えられるケースが少なくありません。
発達障害の方は、パワハラの被害者にも、加害者にもなりやすいです。

皆様の周りに、以下のような特徴をお持ちの方はいらっしゃいませんか?

  • 明確な指示がないと動けない
  • 場の空気を読むことができない、空気に沿った対応ができない
  • 冗談が通じず、会話の行間や間を読むことができない
  • 曖昧なことを理解できない
  • 好きなことは永遠とやり続ける、話し続ける
  • スケジュール管理ができない
  • 自分が興味のないことは頑なに手を出そうとしない
  • 急な変更にうまく対応できない
  • 名前を呼ばれないと自分だと気が付かない
  • 相手の気持ちをおもんぱかれない、人を傷つけることを平気で言う

「いるいる!」という場合、悪気があるわけでもやる気がないわけでもなく、「もしかしたら、発達障害なのかもしれない」ということを、頭の片隅に置いておくだけでも、寛大な配慮ができるかもしれません。

発達障害とは

発達障害は、広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害など、脳機能の発達に関係する障害です。
発達障害がある人は、コミュニケーションや対人関係をつくるのが苦手で、その行動や態度は「自分勝手」とか「変わった人」「困った人」と誤解され、敬遠されることも少なくありませんが、発達障害は脳の働きの違いによるもので、決して「本人の努力が足りない」とか、「親のしつけに問題がある」というものではありません。
一人ひとりの特性に応じた理解や支援が大切です。

大人の発達障害

発達障害は生まれながら脳の働きにかたよりがある障害なので、「大人になってから発達障害になる」というわけではありませんが、子どもの頃はその特性を「個性」と捉えられたり、周囲がフォローしたりするため、本人も周囲も気づかずに成長し、大人になってから、複雑な社会の中で適応しようとしたときに、潜在していた発達障害の特性が顕在化することがあります。

職場の状況

職場での理解は進んでおらず、発達障害の特性による言動を理由に解雇されたり、合理的配慮がなく退職勧奨を受けたりするケースがあり、訴訟が相次いでいます。
身体障害と異なり外見からはわかりにくく、本人の性格なのか障害なのかの判断も診断を得ない限り難しいこと、本人も自覚していないケースが多いこと、求められる合理的配慮の内容も曖昧であることなどが、改正法が職場に実装されないことの背景にあります。

主な発達障害の特徴と配慮のポイント

注意欠陥多動性障害(AD/HD)

注意欠陥多動性障害は、「集中できない(不注意)」「じっとしていられない(多動・多弁)」「考えるよりも先に動く(衝動的な行動)」などを特徴とする発達障害です。

特徴
  • 集中できず、ケアレスミスを生じやすい
  • 落ち着きがなく、せっかち
  • 整理整頓が苦手
  • 落とし物や忘れ物が多かったり、約束を忘れたりと、うっかりしている
  • 人の話を黙って最後まで聞けず、遮って話したり、他のことをし始めたりする、等
強み
  • 独創的なアイディアが豊かで、クリエイティブな才能を発揮することがある
  • 好奇心が強く、興味のあることを極める力がある
  • 行動力がある、等
配慮のポイント
  • 抽象的にではなく具体的に、短く、はっきりと指示を出す
  • 余裕を持って指示を出す
  • 忘れることを前提に指示を出す
  • 口頭だけでなくメモや指示書、メール等の文書も添える
  • 一回一指示・一用件とし、パンクさせない
  • 散らからないよう物や書類を度々回収するようにする
  • 集中できるよう座席の配置や作りを工夫する、等

自閉スペクトラム症(ASD)(以前は「アスペルガー症候群」と呼ばれていた)

広い意味での「自閉症」に含まれる一つのタイプで、「コミュニケーションの障害」「対人関係・社会性の障害」「パターン化した行動、興味・関心のかたより」があります。自閉症のように幼児期に言葉の発達の遅れがないため、障害があることが分かりにくいのですが、成長とともに不器用さがはっきりすることが特徴です。

特徴
  • 双方向のコミュニケーションをとるのが苦手
  • 他人への関心が薄く、人の気持ちや立場に配慮するのが苦手
  • 場の空気を読むのが苦手
  • こだわりが強く、意見を譲ったり臨機応変にに対応したりしない
  • 自分の関心事や一つの作業に没頭しやすく、複数業務を並行するのが苦手
  • 曖昧な指示に対応できない、等
強み
  • 規律正しく、ルールを守り、約束を守る誠実さがある
  • 自身に合った記憶法によれば、記憶力が優れている
  • 地道にコツコツ集中することができる
  • 自分の関心事について見識を深める努力を惜しまない、等
配慮のポイント
  • 指示を曖昧に伝えず、具体的に、図などの視覚的方法を用いて、わかりやすく伝える
  • 指示を急に変更したりせず、なるべく予定通りにするか、余裕を持って伝える
  • 本人の関心事に沿った提案や説明を心がける
  • 一回一指示・一用件とする
  • 感覚過敏がある場合は、机の周りに仕切り版を設置する
  • 大声を出さない、大きな音を立てない
  • 耳栓を必要とする人には可能な限り許可する

職場ですべき「合理的配慮」とは

指針では、「合理的配慮は、個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべき性質のもの」と示されています。
相互理解のための対話から始めましょう。
なお、事業主に対し「過重な負担」を及ぼす配慮に該当するか否かについては、①事業活動への影響の程度、②実現困難度、③費用・負担の程度、④企業の規模、⑤企業の財務状況、⑥公的支援の有無、といった要素を総合的に勘案しながら事業主が個別に判断することとされています。
事業主は、過重な負担に当たると判断した場合は、その旨及びその理由を障害者本人に説明します。
その場合でも、事業主は、障害者の意向を十分に尊重した上で、過重な負担にならない範囲で、合理的配慮の措置を講ずることとなっています。

1.採用時及び採用後に、本人から申し出てもらう

「何か障害をお持ちですか?」「必要な配慮はありますか?」「どのような配慮が必要ですか?」と問い、その場では何も言われなくても、「必要なことがあれば遠慮なく申し出てください」と伝えておきます。聞き取ったことは、本人の同意なく口外してはならないのはもちろんのこと、本人の同意があったとしても、本人に不利益が生じることのないよう共有範囲やその方法については極めて慎重に検討します。

2.労使双方で協議する

本人が希望した配慮について、現状等を詳しく聞き取るとともに、企業としてどこまで配慮できるか、すり合わせを行います。
また、社内や部署内のどの範囲にまで共有するかを話し合います。
本人の意向を最優先としつつも、経営上、または業務上「過重な負担にならない範囲」を超える配慮はできません。
一回のみではなく、継続的に話し合い、柔軟に進めていきます。

3.配慮を実行する

本人からの申し出に沿って、または管理者側が小さな実験を繰り返しながら、一人ひとりの取扱説明書を構築していきます。
これは、障害の有無にかかわらず、すべての個性豊かな多様な社員と共に働き過ごすうえで大切なことです。

「あれ?この人はもしかして?」と感じたら

発達障害は、本人も周囲も明確には気づけていないことが多いため、本人からの申し出もないし、周囲が「あなた発達障害では?」と聞くこともできないしで、判断が難しいものです。
コミュニケーションのとり方や、ミスの頻度、感情の起伏などが、平均的なそれとは違う気がするとき、それを「怠けている」「悪意がある」「性格が悪い」と決めつける前に、「もしかしたら?」と考えてみることです。
そして、もしもそうだとしたら、ここで自分が感情的になっても仕方がないので、その人の個性として受容し、尊重しようと考え気持ちを落ち着けます。
もしも発達障害ではなかったとしても、同じことです。性格や価値観は他人が変えられるものではありませんので、個性の受容と尊重しかありません。
一人ひとりの特性を生かした配置、業務分担、教育を心がけること、これに尽きます。

参照・出典

投稿者

株式会社 ケンズプロ
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