セクハラ被害の大きさ、重さは、実際に経験したことのない人たちからは軽んじられやすく、「そのくらいのことで」「大げさだ」「減るもんじゃないでしょう」「あなたにも原因があるのでは」などの心無い言葉に、被害者は一層傷つけられます。
被害者の心情、被害の重さを知ることは、セクハラの予防及び被害者へのセカンドハラスメントの予防につながります。
セクハラは、肉体的に侵犯するだけでなく、精神をも虐殺し、時に死をも選択させます。
時にセクハラは、殺人のようなもの。
セカンドハラスメントも同罪です。
セクハラ被害者の心情
セクハラ被害者の多くは、明確に拒絶しないことがほとんどです。
なぜ拒絶しないのでしょうか。
- お世話になっている人の要求には応えたいし、気遣ってくれているのがわかるから拒絶するは申し訳ない。
- 人事上不利益に取り扱われることを恐れて。
- 気まずい空気や関係性になることを恐れて。
- 早く被害を終わらせたいから、気にしていないふりをする。
- 「性にオープン=ノリが良くて楽しい、感じが良い」という日本社会の風潮があるから。「感じが悪い」「ノリが悪い」と思われたくないから。
- 性的解釈をする自分がおかしい?私だけが性的に解釈してしまったことを悟られるのは恥ずかしい。自意識過剰と思われそうで。
上下関係、取引関係、主従関係にある者の間でなされた合意や笑顔は、その真意は「疑わしい」と考えるべきです。
YESと答えても、本心はNO!の可能性が高いし、笑顔は、苦笑いや愛想笑いかもしれません。
そのときはYESでも、後から気持ちや関係性が変わることもあります。
本心は本人以外誰にもわからないのですから、相手の気持ちや反応に関わらず、仕事上の関係性において一般的に不適切とされる言動や、不快に感じる人が多い言動は、控えるべきです。
被害者は、その場は笑顔で(苦笑いで)丸く収めるのですが、時間差で、様々な感情が込み上げてきます。
- 何だかもやもやする
- 吐き気がする
- 怒り・不快感・嫌悪感
- 虚しさ・悲しみ
- 後悔(セクハラを受け入れてしまった判断ミスを)
- 「仕事で」認められたいのに、性的対象とされ矮小化されているという悔しさ
- 家族に知られたらどうしよう?
- 自業自得なのかな?
「私さえ、ほんの一瞬我慢すれば丸く収まる」という感情と、「でもやっぱり…」という感情とを行ったり来たりしているうちに、どんどん心がすり減っていきます。
「セクハラなんて、減るものじゃないでしょう」と言われますが、心がすり減り、失くなってしまったら、死と同じことです。
セクハラ被害者の葛藤
セクハラされることで受けるデメリットと、セクハラを拒絶することで受けるデメリットとを、瞬時に、あるいは長期的に比較し、葛藤します。
セクハラを拒絶したり告発したりすることで受けるデメリットとは、報復人事やいじめ、関係性の悪化、周囲からの非難などがあります。
加害者が権力者の場合、キャリアへの影響は避けられません。逆上されて生命が危険にさらされることも頭をよぎるでしょう。
「拒絶しない方が安全か」「でも自分を守らなければ」「沈黙が自衛の最善策か」…様々な葛藤に苦しみます。
「拒絶すれば良かったじゃない」「逃げられたでしょう」「なぜもっと早くに相談しなかったの?」と周囲は他人事のように(実際他人事ですから)言いますが、単純な判断ではないのです。
なぜすぐに相談・告発しないの?
なぜ、被害者は、すぐに誰かに相談したり、告発したりせず、後から訴えるのでしょうか。
なぜなら、被害を受けた直後は、誰かに言えるような精神状態ではないからです。
時間が解決してくれる問題でもなく、精神状態の回復には長い時間を要するか、場合によっては一生涯、元には戻らないこともあります。セクハラ被害者は心に大きな傷を負い、その傷は、長く、深く、強く、辛く、暗く残るものです。
セクハラ被害者のPTSDートラウマ
フラッシュバック
- 突然、出来事の光景が恐怖や無力感とともに蘇り、まだ被害が続いているような現実感を生じる「再体験の症状」「侵入の症状」
- 冷や汗、動機、吐き気、失神、パニック等
回避
- 出来事を思い出させる行動、人、場所、時間、状況等を回避したり、思い出せなかったり、他人事のように感じたりする
- 回避のために機会を失わざるを得ないのは、損失である
過覚醒
いつも緊張して気持ちが張り詰め、ドキドキ、イライラ、ピリピリしていて落ち着かず、物音に驚いたり、怒りっぽくなったりする
再被害
長期間繰り返し危険な状況にさらされていると、何が危険で何が安全かわからなくなり、危険を察知できず、再被害に遭いやすい
ハリウッドの絶対的権力者からレイプ被害を受けたローズ・マッゴーワンは、「トラウマは生々しく残る。何年経っても消えるものではない。心と体の奥に氷の塊がある感じ」と表現しています(「The Catch and Kill Podcast with Ronan Farrow」より引用)。
ではどうして、何十年も経ってから、「告発する」のでしょうか。
- やっと事件について話せる精神状態になったから
- 黙っていることに耐えきれなくなったから
- 後世に被害者を出したくないという正義感が、葛藤に打ち勝ったから
- 誰かの助言や励ましがきっかけで
- テレビやインターネット等で、セクハラや告発のニュースに触れ、背中を押されて
ただし、告発できるようになったとしても、傷が小さくなったわけではありません。
傷は一生消えないものですし、告発により、新たな闘いが始まり、新たな傷を負うことになります。
長期間拒絶の意思表示をせず受け入れ続けていたとしても、平気だったわけでも、喜んでいたわけでもありません。
長期間何も言えなかっただけ、長くなるほどに拒絶しづらくなっただけかもしれません。
沈黙の時間の長さで、受け手の心情や傷の深さは測れないのです。
信頼関係があれば許されるか?
信頼関係があるからこそ、被害者にとっては、信頼していたのに裏切られたという絶望が大きく、信頼が厚かった相手ほど拒絶し辛いものです。
信頼関係は破綻し、被害者は人間不信に陥ります。
もしも信頼関係がないとしたら許されないような行為は、決してしてはならない行為です。
また、信頼関係というのは、脆く儚いものです。
何かの小さなきっかけでホロリと破綻します。
破綻した後、過去の出来事(過去の時点では気になっていなかったことも)を思い出し、不快感に襲われることもあります。
いつか関係性が悪化したときに、今日の出来事は問題にならないだろうか、という視点が大切です。
理解はできなくても、軽んじないで
セクハラ被害の未経験者に、被害者の心情を自分ごとのように理解してもらうことは難しいでしょう。
それでも、被害者の言葉にできない気持ちを汲み取り、代弁してあげるか、何も言わずにただそばにいてあげることはできるでしょう。
少なくとも、理解できないからと言って、被害者の心情を軽んじたり、責任を問い詰めたり、侮辱したり、敵対したりはせず、自分の家族が同じ被害を受けたらと想像し、心情に寄り添ってあげていただきたいものです。
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