ペイシェントハラスメントとは
ペイシェントハラスメントとは、医療従事者が、患者やその家族等から受ける、不快感や不利益、脅威を感じたり、人権、人格、自尊心を侵害されたりするような暴言、暴力、迷惑行為、性的嫌がらせなどのことです。
ハラスメントとは、不快感や不利益、脅威を与えたり、尊厳を侵害したりするような言動のこと。
「医療現場におけるカスタマーハラスメント」「患者等からの迷惑行為」などと表現されることもあります。
また、ペイシェントハラスメントの主体(行為者)を、「モンスターペイシェント」と呼ぶことがあります。
加害者は、患者さん、利用者さん、ご家族等を合わせて「患者・利用者等」と表記します。
被害者は、医療・介護従事者ですが、ここでは「職員」と表記します。
病院、クリニック、高齢者介護施設等を合わせて、「病院等」と表記します。
厚生労働省が公表した令和3年度の「過労死等の労災補償状況」では、精神障害に関する事案の労災補償について、請求件数、支給決定件数ともに、「医療、福祉」が最も多くなっています。
日本看護協会が実施した「2017年看護職員実態調査」によりますと、過去1年間における暴力・ハラスメントを勤務先または訪問先等で受けた経験がある人について、誰から受けたかについて訪ねたところ、「意に反する性的な言動」「身体的な攻撃」は「患者」からが最も多かったということです。
また、厚生労働省が2019年に公表した『介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書』によると、「これまでに」利用者本人からハラスメントを受けたことのある従事者は、サービスにより差はあるものの、平均すると6割弱。利用者の家族等からハラスメントを受けたことのある従事者の割合は、訪問系では2〜3割、その他も1〜2割となっています。
福岡医師刺傷事件
- 2022年6月27日、福岡市東区の病院で、男性が医師をナイフで複数回刺し殺害しようとした事件。逮捕された容疑者は以前、通院していた母親の付き添いでこの病院を訪れていた。
- 刺された男性医師は、背中などに全治2週間の負傷。
- 動機等は捜査中。
2022年1月27日、60代男性(本件犯人)が、その前日に死亡した母親のため利用していた出張介護クリニックの関係者を含む医療関係者7名を、弔問に呼び出し、人質にして取り立てこもり、散弾銃や催眠スプレーで攻撃、医師1名が殺害された事件。
北新地ビル放火殺人事件
- 2021年12月17日に、大阪府大阪市北区曽根崎新地の雑居ビル4階に入居する、心療内科や精神科などを専門とするクリニックで起きた、元患者による放火殺人事件。
- 院長、被疑者を含む26名が死亡、1名が負傷。
当社で把握している事案の一例
- コップや食器を投げつける
- 手を払いのける
- 唾を吐く
- 叩く
- 理不尽な要求をする
- 大声を発する
- 診療に協力しない
- 担当替え要求を繰り返す
- 不必要に身体に接触する
- 卑猥な言動を繰り返す
- スカートをめくろうとする
ペイシェントハラスメント予防・対応研修
医療機関や介護施設等における患者・利用者・家族等からの迷惑行為を、どのように予防し、万が一発生した際はどのように対応するか、を学ぶ研修をご提供しています。
【寄稿】『季刊誌・認知症ケア』(株式会社日総研出版様)特集ページ「利用者・患者からのセクハラ予防の具体策」
>詳しくはこちら
チェックリスト無料ダウンロード
ペイシェントハラスメントの要因
加害者(患者・利用者等)に要因がある場合と、ハラスメント自体は容認されないとしても、病院等側にもハラスメントを引き起こす要因がある場合とがあります。
加害者(患者・利用者等)に要因がある場合
- 患者・利用者等の性格又は生活歴
- 患者・利用者等がサービスの範囲を理解していないこと
- 患者・利用者等に認知症等の病気又は障害によるもの
- 患者・利用者等がサービスへの過剰な期待をしていること
- 診療方針や心身の健康状態等への不安、等
病院等側にも要因がある場合
- 診療方針等の説明不足
- 対話不足(不安や質問を聞かなかった)
- 職員による礼を失した対応
- 待ち時間の長さや待合室の環境
- 呼出時のミス(順番抜かし・氏名の誤読等)
- 施設や設備の不備(温度・照度・段差・散乱・案内や経路のわかりづらさ等、等)
病院等側にも要因がある場合は、対策より予防できる可能性があります。
すべての迷惑行為を一律に「患者・利用者等が悪い」と決め付けるのではなく、患者・利用者等の行為が過剰であったとしても、病院等側にも原因・落ち度はなかったか、必ず検証するべきです。
ペイシェントハラスメントがもたらす影響
ペイシェントハラスメントは、職員の生命、健康、尊厳を傷つけ、働く意欲を阻害し、仕事への誇りを奪い、ひいては提供する医療・介護サービスの質を低下させ、福祉への信頼を失う結果を招きます。
職員の犠牲のもとには、健全なサービス提供はなし得ません。
医療・介護従事者が安心して安全に働ける職場環境を整えることが、持続可能な福祉の実現につながります。
医療機関におけるペイシェントハラスメント対策
※以下は、医療機関における安全管理体制についてですが、介護現場にも準用することができます。
安全管理体制の整備
医療法施行規則第一条の十一(一部、略)
病院等の管理者は、法第六条の十二の規定に基づき、次に掲げる安全管理のための体制を確保しなければならない(ただし、第二号については、病院、患者を入院させるための施設を有する診療所及び入所施設を有する助産所に限る。)。
- 医療に係る安全管理のための指針を整備すること。
- 医療に係る安全管理のための委員会を開催すること。
- 医療に係る安全管理のための職員研修を実施すること。
- 医療機関内における事故報告等の医療に係る安全の確保を目的とした改善のための方策を講ずること。
(安全管理体制1)「医療安全管理指針の整備(ペイシェントハラスメント対策指針)」詳細
(安全管理体制2)「医療安全管理委員会の開催(ペイシェントハラスメント対策委員会)」詳細
(安全管理体制3)「医療安全管理研修の実施(ペイシェントハラスメント対策研修)」詳細
事件発生リスクを低減する予防策
患者・利用者等への方針周知
患者・利用者等に向け、ハラスメントを禁ずること、ハラスメントをした場合の対応などを、ポスターや配布文書等により周知します。
医療機関における患者等からのハラスメント防止文書(見本・外来患者用)
入居・入所型介護施設における利用者等からのハラスメント防止文書(見本)
安全管理に関する職員の意識を高める
マニュアル作成
暴力を起こす患者・利用者・家族等、起こす可能性のある患者・利用者・家族等に対する対応方法を決めておき、安全管理対策マニュアルに明示する。
マニュアル周知
職員が安全管理への意識を持つこと、「声かけ」が効果的であることを、安全管理対策マニュアルに記載し職員に周知する。
働きかけ
マニュアル周知や研修、委員会への参加等を通じて、職員の安全管理に関する意識が高まるよう働きかける。
来院者への声かけ
来院した患者・家族に対し、「こんにちは、どちらに行かれますか?」「何かお手伝いしましょうか?」といった「声かけ」を日常的に行う。
声かけは、ケアと防犯どちらの観点からも重要。
知識研鑽
アルコールや薬物による影響や行動に対する知識を深め、適切な対応ができるようになる。
基本的対応の心構え
- (可能な場合)患者・利用者等について事前に情報収集し、ハラスメントのリスクを判断する
- 患者・利用者等の尊厳を守る
- 傾聴する
- 穏やかに丁寧な言葉で冷静に対応する
- ハラスメント行為に対して、事業所姿勢や行為者への対応を説明する
- 誠実な気遣いで、共感的に理解する
- 批判を受け入れる心構えをもつ
- 患者・利用者等がなぜそのような言動をしたのか説明する機会を提供する
- 対応方法について協議する場をもつ
- 報告・相談をする(危害が生じた時はもちろん、「恐怖を感じた」「殴られそうになり、身の危険を感じた」等の被害についても報告する)
https://www.hna.or.jp/for_nurses/n_visiting_nursing/against_violence/entry-1526.html
医療機関における安全管理体制詳細
(参照)厚生労働省資料『医療機関における安全管理体制について』(平成18年9月25日医政総発第 0925001号)
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/i-anzen/hourei/dl/060925-1a.pdf
警察への事前相談
身体的被害や窃盗、盗撮等の予兆、懸念がある場合は、「まだ具体的な被害が生じていない」段階でも、予め警察に相談し助言を得て、必要な対策を講じておくことが望ましい。
- 今できる予防措置
- 発生時にとるべき具体的対応
- 発生時等の連絡先
- その他留意点、など
●警察に相談記録が残ることで、発生時に円滑に対応、解決できる可能性が高まる
●6W1Hを整理したうえで相談するとスムーズに進められる
ペイシェントハラスメント事案発生時の対応
※状況により同時並行又は順序入替
危険回避行動(安全確保行動)
- 行為者に拒否の意思表示・注意(「やめてください」「それはできません」等)
- 行為者から一定の距離をとる(非難・逃げる)
- 応援を呼ぶ(ナースコール・防犯ブザー等を利用する)。一人で対応しない
- 刺激・挑発しない
- 場所を変える。落ち着いて話せる環境(個室等)に誘導する
- 具体的には類型により異なる
証拠押さえ
- 録音・録画
- 行為者、事案の実態(客観的事実)、発生時間等をメモしておく
上司に報告
- 上司が加害者の場合は、より上位の職位者、安全管理者等に報告
迅速な受診・治療
- 身体的被害を受けた場合
現場保存
- 行為者を別の場所に移動させる
- 記録完了まで現場の状態をできる限りそのまま残す
- 弁護士にも連絡する
- (警察へ通報した場合)警察官に確認してから片付け
証拠収集・記録化
- 看護記録に事実を簡潔に記載する。後日でも良いが、記憶が薄れないうちに
警察へ通報
- どのような場合に通報するか、予めマニュアルに示しておく
- 必要と感じたときはためらわずに通報する
組織としての対応
- 組織全体に暴力が発生したことを知らせる
- 暴力発生現場に職員を集める、あるいは避難を促す全館放送を行う
- 緊急時に応援に行く職員、待機する職員を決定し指示する
- 外部資源(契約している警備会社・最寄の警察) への連絡・調整を行う
- 加害者が入院または入所している場合は、入院または入所の継続について検討する
- 暴力発生後の対応責任者を決定する
ペイシェントハラスメント事案発生後の対応
直後の対応
各所へ連絡
- 行政、保健所、近隣の医療機関に連絡し、注意喚起・協力を依頼する
マスコミ対応
- 報道機関への対応窓口・方法を定める
-
- 事実に反した報道や不十分な報道による混乱、過剰な取材による職員、患者・家族の負担を避けるために、マスコミ対応窓口及び担当者を一本化し、(個人の意見ではなく)病院としての見解を内部で整理した上で発表する
病院等の機能回復
- 診療を継続するかどうかを早急に決定する(外来のみ一時的に中止等も考えられる)
- 上記決定を掲示等で明示するとともに、診療を継続する場合には、診療機能回復を迅速に行い、患者・家族の信頼回復を図る
- 患者、家族に状況説明を行う
職員・加害者等への対応
ケンズプロのサポートメニュー
当社は、ペイシェントハラスメント予防策のアドバイスから、対応マニュアル作成、職員様からの相談窓口、発生時対応に関するご相談まで幅広く対応し、医療機関の安全な運営をサポートしています。
関連ページ
- ペイシェントハラスメント
- ペイシェントハラスメントの行為事例
- ペイシェントハラスメントの発生要因と対策
- 医療安全管理指針の整備(ペイシェントハラスメント対策指針)
- 医療安全管理委員会の開催(ペイシェントハラスメント対策委員会)
- 医療安全管理研修の実施(ペイシェントハラスメント対策職員研修)
- ペイシェントハラスメント対応マニュアル作成
- ペイシェントハラスメント予防策(1)ー作業環境管理のリスク要因除去
- ペイシェントハラスメント予防策(2)ー防犯設備・システムの拡充
- ペイシェントハラスメント予防策(3)ー警備員の配置の充実・病院職員との連携促進等
- ペイシェントハラスメント発生時、被害者の対応
- ペイシェントハラスメント発生時、同僚等の対応
- ペイシェントハラスメント発生時、管理者の対応
- ペイシェントハラスメント発生後、職員のケアと被害者への対応
- ペイシェントハラスメント発生後、加害者への対応
- ペイシェントハラスメント発生後、組織的な対応・再発防止策の検討
- 【医療・介護】ペイシェントハラスメント予防・対応研修
- 【ダウンロード】ペイシェントハラスメント発生リスク・予防策チェックリスト
ペイシェントハラスメント関連情報
- 【寄稿】『季刊誌・認知症ケア』特集ページ「利用者・患者からのセクハラ予防の具体策」 9月 6, 2023
- 医療法⼈清翠会様 『患者・利用者等からのハラスメント予防・対応研修』(医療・介護/ペイシェントハラスメント) 8月 24, 2023
- 【ダウンロード】介護ハラスメント・迷惑行為防止文書(利用者等へのお願い・説明文見本)※入居・入所型 6月 27, 2023
- 【ダウンロード】カスタマーハラスメント発生リスク・予防策チェックリスト 6月 25, 2023
- 【ダウンロード】ペイシェントハラスメント発生リスク・予防策チェックリスト 6月 24, 2023
- 精神障害の労災基準に「カスタマーハラスメント(カスハラ)」追加の見通し、厚労省 6月 21, 2023
- ペイシェントハラスメント対応マニュアル作成 5月 27, 2023
- 【ダウンロード】ペイシェントハラスメント・迷惑行為防止文書(患者等へのお願い・説明文見本)※外来用 5月 20, 2023
- 「患者らから暴力や暴言あった」医療機関の4割、福岡市医師会調査(2022年10月24日 西日本新聞) 10月 24, 2022
- 医療機関で不審者想定訓練 福岡市の医師刺傷事件を受け(2022年7月6日 テレビ西日本) 7月 6, 2022